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十二の異色が願い込めた裏切り携帯視界  作者: 北条 南豆木
第1章 五十嵐就活編
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二話 五十嵐 皇真 とは

 五十嵐 皇真。彼について聞けば、皆口揃えて語るのは『無口なのにうるさい』と矛盾した解答だ。首を傾げるしかない答えであるが、直接本人に会えば納得いく。なるほど当を得ていると。


 喜怒哀楽の感情が、言葉失くして、表情で素振り・オーラで伝わって来るのだ。皇真は必要最低限しか話さないが、何を思っているのかがわかるぐらいに。

 正直者なのか、それは隠されずに日々発揮されている。


 例えば給食の時間。好物が出た時は目をランランと輝かせ、少年の周囲に見えるはずがない音符マークが飛ぶ。

 例えば授業中。解けない問題があれば、険しい形相で教科書を睨み、やがて聞こえる訳がないシュ〜と頭を沸騰させる音が放たれたかのようなオーラが漂う。


 感情表現豊かなのに反比例して、言葉足らず。まるで不器用な幼子じみた性格。

 これにはちゃんとした経緯がある。


 彼は幼少時、父親の母国であるドイツで過ごしていた。だが八歳を迎えたある日。仕事の都合により家族一緒に、母親の母国、日本へ移住する事になる。

 初めての異国の地。何より大好きな母が育った場所。


(新しい学校はどんな感じなんだろう 友達出来るかな)


 期待に胸膨らませ降り立つ。


 しかし、待っていたのは過酷な運命だった。

 人は自分とは違うものを嫌う傾向がある。父譲りの白金髪・青みがかった灰色の瞳を持つ彼は、クラスに馴染めなかったのだ。

 まだ善悪の区別がつかない子供達は、容赦なくいじめだす。テンプレな無視から始まり果てには「エイリアン」なんて酷いあだ名で呼ばれた。


 そんな折に担任から、ある種の呪文が発動される。


『二人組を作って下さい』


 国語の時間に、教科書を音読させるのを目的に放たれた攻撃。

 彼には抜群の効果であった。本来ならば席が近い者同士組むだろうに、隣に座る子供は皇真を置いて、わざわざ遠い席にいる友人の元へ走り去ってしまう。


(え、あ、どうしよ。どうしようどうしよぉ)


 せり上がって来る不安と孤独にオロオロ他の人を探せど、皆既に読み合いをしている光景に余計に焦りが生じる。 落ち着きなく目を動かす中、ふと思い出した。


 自分のクラスは、割り切れる人数である事に。

 ならば必然的に誰か余っているはず。


 気付いた事実に、今度は注意深く生徒達を観察する。


(誰か、誰か……)


「あっ」


 いた‼︎ あの子だ‼︎


 黒板から見て廊下側一番奥の席である自分と対象。窓際に座る女の子は、下を向き黙々と教科書を見ていた。


 皇真は藁にもすがる思いで近づき


「あ の ぼく いっいっしょ よむ?」


 勇気を振り絞って声を掛けた。

 だが女の子はキョトンとし、こちらを見るだけで、気まずい沈黙が流れる。


(もしかして発音変だったのかな⁇)


 母からある程度日本語を教えてもらっているが、今もなお不慣れだ。

 さっきとは違う動揺がじわじわ広がって行く。


「──」


 不意に相手の口元が動いた。


「え⁇」


 けれども、その声は小さく聞き取れない。

 返事に困っていれば、女の子は伝わっていない事を察したのだろう。

 今度はしっかり視線を合わせ。


「……うん‼︎」


 僅かに頬を赤くして、目を細め嬉しそうに頷いた。


 短な間、教科書を読み合うだけ。彼女も『口下手』であったようで、話題らしい話題もない。けれど、不思議と嫌な感じはせず、むしろ心地良く。


 びっくりするくらい二人は相性が良かった。


 この出会いをきっかけに、少年と少女はあっという間に友達と呼べる関係になる。

 互いに喋るのが苦手でも、なんとなく意思が伝わる。時にはジェスチャーでやりとりする場合もあり、二人して「おかしいね」と笑い合う日々。

 日本で出来た初めての友達に、皇真は浮かれに浮かれた。


 だから考えもしなかったのだ。何故あの時間、彼女も一人ぼっちでいたのか。

 己と同じ いじめ にあっている事を知ったのは、友達になり半月ぐらい過ぎてから。

 今まで陰口を言えど、直接手を出した事はなかったクラスメイト達が『ヒーローごっこ』と称して皇真に理不尽な暴力を振るったのを発端に


 彼女にも変化が起きてしまった。


 毎日履いていた上履きは来客用のスリッパになり。綺麗だった机は、落としきれぬラクガキまみれ。いつもならしない、教科書や筆記用具の忘れ物が多くなった。


 ここまでくれば、流石に皇真も気づく。自分とは別種の暴力を。彼女が心の暴力を受けている事実に。


「ぼくと一緒にいるせい⁇」


 心配して聞けば、首をぶんぶんと横に振り「元からだよ」と寂し気に呟き返された。

 辛いだろうに、微笑みながら逆に


『皇真君の髪お星様みたいでキラキラしてて、目は夜空みたいだよ』


 周りから忌み嫌われた容姿を、

 親から貰った大事な色を、


 そう 励まし 認めて くれた。


 その時、その瞬間。心臓や頭、身体中が締め付けられる感覚に、走ってもいないのに、ドクドクと高鳴る胸の衝動と共に、


(この子は ぼくが…)


『守ろう』と固く強く、使命感にも似た決意をした。


 この決意が、五十嵐 皇真 という人間を形作る根元になり、また大きく歪ませる原因となる。

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