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十二の異色が願い込めた裏切り携帯視界  作者: 北条 南豆木
第1章 五十嵐就活編
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十九話

  Life(生命を) Erode(侵食する) Pledge(契約) 通称LEPはそれぞれ固有能力があり、戦闘特化に適してるのもあれば、情報収集に長けたものなど多種多様に存在する。されど集団の中には、被っていたり、似ている能力を持っている者達もいて、宮下の能力「防御壁(バリア)」を保持する仲間もいる。


  では何故「末端の構成員」「幹部」

 と上下関係が生まれてしまうのか。


  人格・腕力・知性、勿論それも含まれるが、もっと単純な話「才量の差」だ。

  LEP携帯、異質で非現実な力を宿しているが、使うのは人間で能力発動の際携帯と能力者はリンクする。そこに必要とされるのが「集中力」ようは精神の使い方。一点に集中するのが得意な人もいれば逆も然り。


  つまり能力の個性と使い手の相性によって左右されるが故に差が生じるのだ。

  宮下が防御壁(バリア)を狭めたのも、より周りに集中する為である。

 


「だから西園寺の気を逸らせば攻撃も逸れるかもしれないし、当たったとしても大したダメージにはならないはずっす」


  自分の説明に考え込む皇真へ、もう一言付け加える。


「けど、僕の防御壁(バリア)内にいる間は外に能力は効かないっつか、自動的にキャンセルされちゃうっすから……」


  どうしても防御壁(バリア)を解かないといけない。


  今も喚き散らし癇癪起こす西園寺の猛攻に対し、全くの無防備になってしまう。失敗すればタダでは済まない。


(さぁ、どうするっすか五十嵐君)


  半径一メートルの防御壁(バリア)のヒビは既に全体まで広がっている。残された時間は少ない。

  作戦を指揮するのは自分でも実行は皇真だ。彼の行動によって命運が決まる。西園寺の気を自分達から逸らす事が出来る確実な方法を迅速にとらなければいけないのだ。


「いいかげん、にっっ‼︎ 諦めなさいっ‼︎ 往生際が悪いですわね‼︎」


  後少しのところで壊れぬ壁に、より一層西園寺が声を張り上げる。

  完璧にヒステッリック起こし興奮状態の相手なら、不意を突くのは容易いだろう。だが、置き換えればそれだけ自分達に怒りの感情を集中させてるという意味でもある。LEP(超能力)での戦闘経験を沢山積んでいる宮下さえ、身が縮む賭け。


(いざって場合は五十嵐君だけ……で、も)


  視線を戻した宮下の目が見開く。

 

(なんで)


「タイミング任せる」


  恐くないのか。

 失敗したらどうしようって不安はないのか。


  本部で話していた時とは違い、しっかり携帯を握りしめている手。



  欠片も動じず、真っ直ぐ自分を射抜く瞳に息を呑む。

 

 

「おい」


  呆然とする宮下へ眉を潜める皇真にハッと意識が戻る。


「あ、うん。了解っす。そろそろチャンス来るはずっす」


  いくら味方からでさえ地味な印象ある宮下とて幹部を務めているのだ。呆けていては駄目だと直ぐに頭を切り替えた。


「アレ見てっす」


  目の前でパチパチ音を立てる壁を指差す。


「最初に比べて攻撃の威力弱まってるでしょ」


  宮下の言うように、防御壁(バリア)に阻まれ散っていた火花も衝撃音も小さくなっていた。ぶつかっては弾かれるのを繰り返し続けた事により、石やガラスの破片は砕け粒子と成り果ててしまったらしい。今視認可能の限りでも当たっているのは、ほぼ砂だ。


「西園寺の能力は自分の周り約一メートル範囲を自在に操る「物体操作(オブジェクトオペレーション)」なんす」


  僅かに自身の位置を動かし稼いでいたのであろう弾丸は、西園寺の足元を見れば底をついてるのが一目瞭然。


「五十嵐君とちょっと能力似てるっすけど、物を召喚するのはアイツには出来ないっす」


  一歩のところで壊せそうな壁、けれど弾丸は尽きてしまった。ならばどうするか。


「武器手に入れる為に移動する」


「正解っす‼︎ でも一つだけ注意があるっす」


  まだ何かあるのかと、面倒くさ気な表情をする皇真に宮下は真剣に話す。


「さっきも教えたっすけど西園寺の能力は「物体操作(オブジェクトオペレーション)」、五十嵐君がどうやって気を逸らすのか僕はわかんないっすよ。でも能力を使うなら下手な物出したら」


「問題ない」


「……そっか、だったらいいんす」


  皆まで言わずとも、皇真の「物体瞬間移動(オブジェクトテレポート)」で召喚した物が操られる危険を理解した様子に頷く。


(流石っすね。あの人から伝えられてた通り、頭の回転が早くて助かるっす)


  欲を出すなら皇真とちゃんと作戦を話し合いたいが、今そんな余裕はない。


  「…………」


  前を見据え二人でチャンスを静かに待つ。

  壁の向こう側で西園寺の足がジリッと動く。しかし相手も自身の弱点など把握済みで、それ以上中々進まない。


(まだっすか)


  敵に集中しながら防御壁(バリア)を張るのは正直キツい。


(いつもだったら負傷者を安全な場所から守る役目の僕は、こんな接戦しないんすよ)


  互いの忍耐勝負に、ゴクリと喉がなる。


(早く、早く)




  西園寺の足が地を蹴った。



「今っす‼︎‼︎」


  即座に防御壁(バリア)を解くと同時に、スタンバイしていた皇真から光が溢れる。



  ボトリ。


  西園寺の行く手を阻むかの如く、小さく黒い物体が落ちた。


「へっ⁇」


  それが何なのか小さ過ぎて見えない宮下から間抜けな声が出る。しかし西園寺の様子に拍子抜けした表情は驚きへと塗り替えられた。


  障害にもならぬ小さな物にビクリと身体を跳ねさせ、数秒だが走っていた足が止まったのだ。


「え、なに」


  確かめようと地面に目を凝らした、その瞬間。




 ボト



 ボトボト ボト


 ボト



 ボトボトボトボトボト、ボトリ。



  上空から次々と正体不明の黒い物体が西園寺へ降り注ぐ。


  太陽の光に照らされ落ちてくる物体、いや生物が何なのか脳が判断した刹那。



  自殺の名所に相応しい、甲高い悲鳴とハスキーボイスの悲鳴が響き渡った。



「きゃああぁあああ‼︎‼︎」


「ほぎゃあぁぁあ‼︎‼︎」


  四本足・六本足、黒光りしているものもあれば緑色もいる。


「いやぁ‼︎ いや!! ひぃいい‼︎‼︎」


  頭を振りかぶり懸命に振り払い、パニックに陥る西園寺の足元。地面には、家庭で時折現れては主婦を脅かす生物や都会ではあまり見かけないが田舎によく出没する生物。


「ゴキブリ」「コガネムシ」「ミミズ」「ムカデ」その他種類豊富な虫達がうじゃうじゃ蠢いていた。


「ぁあ、あいゃぁあああ‼︎」


  もはやコントロールを完全に失い、手当たり次第に能力を暴走させる西園寺が飛ばした虫は宮下へも飛来する。とんだ二次災害だ。


「ぎゃあああ‼︎ アンタなんてもの出してるんっすかぁああ‼︎」


  一匹・二匹であればここまで狂乱なぞしない。だが皇真が召喚した虫は両手両足の指でも足りない数で、大量にひしめき合う光景はおぞましく宮下は二の腕をさする。


(まだ降るんすか!? もういいっ‼︎ ストップストップ‼︎)


  絶えることなく降り続く虫の雨に、吐き気が込み上げる。

 

「五十嵐君‼︎ もお十分っ……ん⁉︎」


  気がついた時には彼は西園寺の後ろで拳をあげていた。



「虫だって生きてんだぞ、踏み荒らしてんじゃねえよ。そんなんだから」


  咄嗟に西園寺が防ごうとするが、最早遅い。



「ブスなんだよ。この性格ブスっ‼︎」


  白い頬に拳がめり込み。華奢な身体は吹き飛び、地べたを擦り滑る。



  ガッツポーズとる皇真に、開いた口がふさがらない。

  殴り飛ばされた西園寺は、起き上がらず倒れたままだ。


「……」


  恐る恐る西園寺に近づき覗く。


「気絶……してるっすね」


  終わった安堵と驚きのあまり腰が抜ける。弱々しく座る宮下はボンヤリする頭で、スッキリしたと表情を輝かせる皇真を見ながら思った。


(誰っすか。この子繊細なんて言ったの)


「トラウマ……出来たっす」


  何時の間にか消えた大量の虫いた地面に向け青ざめた顔で、宮下はガックリうな垂れた。

※今回の話は作者の実話を元に作られました。





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