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十二の異色が願い込めた裏切り携帯視界  作者: 北条 南豆木
第1章 五十嵐就活編
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十七話 (五十嵐と息吹と五十嵐)

  何がどうしてそうなったのか。単なる誤解が生んだ行動が、最悪の結果を招くなど想定外過ぎる。


  あれから数十分経とうと回復の兆しなく、皇真の頭は机にくっついたままだ。


「いい加減にしろよっ‼︎」


  ああ、全くだ。今の時代どんだけ情報早いんだよ。たった二日で呼び名つくなんて怖い俺。


「武信、落ち着け」


  そうそう、冷静に考えろよ。この俺がこんな奴らの仲間な訳ねぇだろ。


「おねがぁい。戻ってきて〜」


  うん。戻ってきてくれ二日前の俺よ。ぶん殴ってやるから。


「ごめんなさいっす」


  今更遅いんだよ。そんな──。


「……ら…ぃ………」


「え⁇」



「謝罪なんかいらない」


  そんなクソの役にも立たないもんいらないんだっつーの‼︎


  ズレた会話を心中繰り広げていた皇真の言葉で、騒がしかった部屋が静まる。


「責任とかもいらない」


  余計に悪化するだけ。「だからほっといてくれ」そう伝える為に、しっしっと払う仕草しようとした手は、痛い程誰かに握られ。皇真の主張は瞬く間に軸屋達の切羽詰まった声で飲み込まれた。


「バカかおまえ‼︎ 一人でどうにかする気かよっ⁉︎」


「君一人で背負う必要はないんだ」


「遠慮しなくていいのよん、私達が支えるわ」


「僕らそんなに頼りなく見えるすっか」


  端々から飛ぶ言葉をどう思ったのか、伏せており表情がわからないがブルブル震える身体に皆が暖かい視線を注ぐ。

  もし皇真が震えている理由を知れば即座に冷たいものへと変化するだろう。優しい言葉に打ちひしがれてるのに違いないが。


(あ''あ''ぁ''ぁ''ぁ''あ''‼︎ やめろっ、マジやめて下さい‼︎)


  なんなんだ、その「クールで影ある主人公が敵地に向かう」シチュエーションみたいなセリフは⁉︎

  どうしてわざわざ中二展開に持っていく⁇ スカウト断っただけで話し壮大になり過ぎだろ‼︎


  沸き起こる差恥と憤怒は声にならず全身を駆け巡る。


「それにこれは君だけの問題じゃないんだ」


  諭す物言いにのろのろ首を上げると、真に迫る瞳が皇真を射抜いた。


「君の身内にも危険が及ぶ可能性がある」


(……え)


  真っ先に浮ぶ、白い部屋に横たわる大事な子。


「もぅ知ってるとは思うけどね〜、あの子達って手段選ばないじゃない。だからね──」

 

  『人質』を取ることだってあるの。


  お姉様が放った二度目の呪文に、表情どころか心臓まで固まった気がした。呆然とする皇真へ大人達は容赦なく現実を叩きつける。


「今更俺らと君は何の関係もないと言ったところで説得力はないだろう」


「まだあっちは様子見って感じだからぁ、今の内に対策しとかないと大変なのん」


「こんなに早く君が目をつけられるなんて予想していなかった」


  すまない。深々と頭を下げ軸屋は言う。「君の好意に甘えた此方のミスだ」「廃ビル・病院でも君を先に逃がすべきだった」皇真はただ聞くしかなかった。


「別に仲間になれって言ってんじゃねーよ。ほとぼりが冷めるまでオレ達の言うことに従えばいいんだ」


  棘があるものの、同情めいた伊吹の気遣いに頷くしかなかった。


 ***


「長官」


  顔色悪い皇真へ重要な事だけ質問し、心配なので送って行くと申し出た宮下と一緒に帰る姿を見届け直ぐに、伊吹は軸屋へ意味ありげな視線を送った。


  肩をすくめ、尋ねなくとも自分が何を言いたいのか理解している軸屋に促され隣の部屋へ移動する。

  本やファイルがぎっしり並ぶ本棚が壁埋め尽くす資料室に、誰も居ないのを確認し切り出す。


「チィの忠告忘れた訳じゃないですよね」


「なぁ、お前はアレどう思う」


  (ああ、まただ。質問に質問で返す)


  癖のある友人と同じでこの人も本題に入るのに一手間かかる。


「チィの情報が外れたことはありません」


「なら、五十嵐君の能力については⁇」


  眉をひそめ、今の話とどう繋がるのか疑問に感じつつもハッキリ答えた。


  「『物体瞬間移動(オブジェクトテレポーション)』でしたっけ。ぶっちゃけ珍しくもない能力だと思いますけど」


  移動出来る範囲と質量はスゴイがと付け足した返答に満足したらしく、軸屋はうんうんと頷き目の前に人差し指を立てる。


「じゃあなんであの情報屋はあんな事言ったんだ」


  危惧する程の力ではない。五十嵐自身にもずば抜けた戦闘力があるとも見えない。


  二本目の指が立てられる。


「そもそも、五十嵐君の事が広まる速度は異常過ぎる」


  軸屋も五十嵐が『期待の新人』と呼び名が付いたのは俄かには信じ難く。彼がトイレに行ってる間に秘書から伝えられた時は飲んでいたコーヒーでむせ返ってしまったぐらいだ。


「どうも腑に落ちん」


「……チィを疑ってるんですか」


「そうじゃない。俺が言いたいのは五十嵐君自身ではなく、『五十嵐君の周り』が『あの忠告』を指してるんじゃないかって考えてる」


「でしたらなおさらっ」


「保護する義務があるな」


「っ‼︎‼︎」


(そうだ。この人はこういう人だ)


  だからこそ自分はこの人を慕い付いてってる。でも──。


「オレは反対です」


「武信」


  例え軸屋の推測が当たっていても。



「あいつはオレ達にとって『厄災の種』なんです」


  今回は仕方ない。自分の責任でもある。しかしそれ以上関わるのは危険が伴う。


「何故、今日あいつを連れて来たんです」


  忠告されておきながら、そんな副音声が聞こえる不安げに揺れる瞳に、軸屋は慈愛に満ちた表情を向けた。


「助けようとしてくれた」


「…………」


「武信、お前を助けようと必死になってくれた。これが理由だ」


  話はここまでだと、押し黙る伊吹の肩に手を置き軸屋は身を翻す。


「それに、この力で困ってる奴ほっとくなんて『彼奴』に合わせる顔がなくなる」


「むしろそっちが本音なんじゃないですか」


  曖昧な笑みで誤魔化す自分達の指導者に呆れつつも、恩人であるこの人から離れる気はない。だったらオレに出来る事をやるだけだと、己を無理矢理納得させ部屋へ戻る。


(もし五十嵐が何かしようもんなら)


  オレが排除すればいいんだ。


  少なくとも、この時はそれで何とかなると伊吹は思っていた。


  まだ誰も気づかぬ亀裂に新しい破れ目が走る。


 ***


  俺だけの問題だと思っていた。


  ざわざわ人がひしめく繁華街を、皇真は俯き歩く。隣を歩く宮下が居心地悪そうにチラ見してくるも、胸から湧く不安に捕らわれ構ってる余裕などなかった。

  不良に憧れた時点で、他人から負の感情を抱かれるのは覚悟していた。けれどその恨みつらみが『大事なあの子』に向けられるとは、想像もしていなかったのだ。


(教科書みたいにはいかないんだな)


  皇真のバイブルにそんなセコいマネをする人物はいない。しかし現実は違う、身体がずっしり重い感覚がする。


「あ、あのさ。さっき長官達はああ言ってたけど」


  意気消沈していく皇真を元気付けたいのか、黙ってこちらを伺っていた宮下が明るい声で話し出した。


「アレよっぽどのことじゃなきゃないっすから」


(でも、可能性はゼロじゃないんだろ)


「確かに彼奴らって無茶振りするけど、僕達みたいな『現役者』は制限あるし『退職者』だって本物の警察のお世話になんかなりたくないんすよ」


(…………どうしよう)


  宮下が何言ってんのかさっぱりわかんねぇ。普段なら中二病の戯言なんて聞き流すが、今は自分に関わる重要な情報だから真剣に耳を澄ませたのだが。


  現役者⁇ 退職者⁇ 制限⁇ 言葉の意味ならわかるけれども、今の話の流れではチンプンカンプンだ。

 

(やっぱ頭おかしいのかこの……ひ…………と)


「え⁉︎ ちょ、五十嵐君⁇」


  あることに気づき、バッと急に距離をとった皇真に宮下はオロオロ困惑する。


「あの、僕なんかしたっすか⁇」


「…………」


  しかめっ面で皇真は無言で宮下を指差し次に己の顔へ指を移動させ、最後に周りをぐるり示す。


「え、え⁉︎ ちょっと待ってっす」


  皇真が伝えたいことを考える合間にも二人の距離はジリジリ離れる。


「あ〜えと、多分始めのは俺の顔ってことだよね。で、繁華街⁇ いや人か……あ‼︎」


  閃き自信満々に「わかったっすよぉ〜」と応えようが、縮まらない距離を見兼ねた宮下は叫びながら近付いてきた。


「だぁーいじょうぶっすよぉー、僕彼奴らに認識されてないっすからぁー‼︎」


「⁇」


  気になる発言に後退していた足が止まる。


(認識されてない⁇)


  それが本当であれば、この不安を解消出来る糸口になるかもしれない。話を聞く姿勢へ変わった。


「良かった止まってくれて。一応答え合わせしたいんすけど、『幹部は顔が売れてるから一緒にいたらヤバいだろ』って意味でいいんすよね⁇」


  頷く皇真にホッと息を吐き宮下は説明する。


「幹部は顔知れてるの事実っすけど、それ僕以外のメンバーなんすよ」


  何故だと首を傾げると、自虐的な笑みが返ってきた。


「あ〜、その僕って平凡じゃないっすか。だから彼奴らも他の構成員と見分けつかないっぽくて。名前ぐらいしか覚えてないのか…………街中ですれ違ってもスルーされるんっす」

 

  返す言葉がないとはこのことか。納得出来てしまうから困る。

  宮下は垂れ目以外に特徴がなく、髪も若者によくいる暗めの茶髪だ。皇真も多分人混みの中会っても気づかないと思ってしまった。服装もジーンズに、チェック柄のシャツに上着を緩く首に結んでる在り来たりな格好。


(参考にならねぇー)


  真似することがイケるなら習らって、この状況を回避する企みであったが。皇真は自分が目立つ部類の人間であるのを身にしみてわかっている。

  聞くだけ無駄だった、早く帰ろうとした足は腕を掴まれつんのめる。


(なんだよ)


  振り返ったところで、宮下の様子がおかしいのに気づいた。

  青ざめた顔から冷や汗が垂れ口元が引きつっており、瞳はある一点に集中している。


  視線を辿る前にぐいっと先刻より強く引っ張られ、勢いで身体が傾く。


「ごめん。さっきのちょっと訂正するっす」


  振り解こうとしたが直ぐに走り出した宮下の方が勝ち、帰り道を逆走する形になってしまう。


「僕彼奴らにスルーされるって言ったけど『一人を除いて』なん……ごめん速度上げるっすよぉぉおー‼︎」


  チラリと後ろを見た彼につられ、視界の端に映った光景は「ああ、なるほど」そう感じさせるものがあった。

 

(初めてだわ。人の笑顔見て「あ、ヤバい、これはマジでヤバい」ってぞわぞわしたの俺)


  皇真達の背後には大学生ぐらいだろう女が、風に長い髪靡かせもの凄い速さで追いかけていた。休日の街中にモーゼを作ってしまう迫力で。

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