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十二の異色が願い込めた裏切り携帯視界  作者: 北条 南豆木
第1章 五十嵐就活編
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十五話 (五十嵐)

  ヤーさんに付き添い到着したのは、病院の裏側へ走り少しの距離にある廃れた倉庫であった。


(定番‼︎ ってあれ?? なんかデジャブ)


  前にも似たような事をしたような。

 

「大丈夫か⁇」


  引っかかるものを覚え眉間に皺を寄せる皇真は軸屋から確認の声がかかり、気のせいだと流した。


「中の状況確かめてから行くぞ」


  急がねばマズくないかと思えど、今は無難に頷く。

  閉ざされた扉へ仲良く宛て耳を澄ます。

  窓が一つもない小さい倉庫では、これしか方法がなく仕方ないのだが、はたから見れば間抜けな光景であろう。


  劣化し錆びつく扉から激しい物音がけたたましく伝わってきた。

 

(何かを強く叩いてる⁇)


  木材が砕けるような音がする。人間を袋叩きにしているのであれば、もっと鈍い嫌な音が聞こえるはずだ。


(少なくとも坊っちゃまは無事っぽい⁇)


  状況が掴めず指示を仰ごうと頭を離しかけた時だ。激しい音に混じり複数の荒げた声が聞こえた。


『くっそ、誰だよこんなに邪魔なの置いたの‼︎』


『ここの持ち主だろ。あ''ー‼︎ ウザい』


『チクショ、この箱とかさえなけりゃ』


  倉庫内の会話にピンっとくる。


  想像だが、始めは整頓されていた荷物を伊吹が崩しバリケードを張ったのではないか。連れ込んだまでは順調だった敵は、狭い倉庫に詰まれた荷物に阻まれ手が届かないんだと。


  そして今も音が響いてるのは、そのバリケードを壊そうと躍起になってるせいだ。


(これは急がねぇとヤバいだろ)


  軸屋も同じ結論にたどり着いたのか、目配せながら手をかける。


  だが悲しくも扉は開かない。


(はっ⁇ ちょ、ヤーさんどした??)


  見てくれ以上に重くて開けれないの⁇ まっさかぁ〜。


「……開かん」


「………………」


  マジですか。


  微妙な空気が二人の間に漂う。


「……つっかえ棒、とか」


「かもしれん」


  どうするんだよ。


  他に侵入経路がないのに。


  考えあぐねる皇真の前で、軸屋が「こうなりゃ直接伊吹に開けさせる」と呟き胸ポケットから携帯を取りかけだした。


(まぁ、それしかないよな)


  危険ではあるが扉が開きさえすれば、外に逃げせるし。

 

「……今いる。ああ、全くお前はなんでそう拉致られるんだ」


  電話越しの会話に「本当にな」と同感する。

  どんだけ恨み買ってるんだ。ヤクザの次期当主とは歩けば拉致られる生物なのか。


「んで、……やっぱりか。『元能力者』共の集まり………扉は……」


  スルーし難い言葉が軸屋の口から発せられ、周りの木々を眺め待ちぼうけていた皇真の首がぐりんと回る。


(ちょ、ちょっと待て⁉︎⁉︎ ヤーさん今……)


『元能力者』って言った⁉︎


  無意識に瞳はズボンのポケットへ動く。

 

『おめでとうございます。今日からあなたは【超能力者】(エスパー)です』


  (まさかまさかまさか⁉︎⁉︎)


  望んでもないのに若く優秀な脳は勝手に昨夜の光景を回想させる。


  モブ共を伸す前に何故か掲げた携帯。


  軸屋が言えば良いものをわざわざ代弁した携帯。


  同時に馴染みある淡い光が広がった携帯。


(なんで気付かなかった俺‼︎)


  つーことはモブ共が一瞬で消えたのも超能力であって。

  昨夜のアレと今のコレは──。


【超能力者同士の戦い】


  何その有りがちな漫画やアニメみてぇなの。


(ウソだろっ⁉︎ ヤーさんまで中二病なのか⁉︎)


  これは事態が落ち着き次第直ちにおっさん問い質そう。

  トンデモ現象起こす百人に一人に当たる携帯は俺が保持するもの以外、例えば瞬間移動なんて力もあるのかなど。


  初めて出会った時ちゃんと話し聞いとけば良かったと後悔する。


「おい」


  もしかしなくても自分は中二病展開に遭遇してるんじゃないか。


「頼みた……ある……が……」


  最も忌み嫌うそれに関わってるのでは。冷や汗が背をつたう。


「君の……扉……」


  だったら、今俺がすべきことは。


「出来るか⁇」


(逃げるしかない)


  自分の考えを肯定しコクリと頷く。


「そうかっ‼︎ ありがとう」


(ん⁇ 何が⁇)


  ハッと意識が戻り、顔を上げたら善は急げとばかりに笑顔な軸屋に腕を掴まれ、上の空であった皇真はぐいぐい倉庫の裏へ連行される。


(え、え⁉︎)


  そんな馬鹿な‼︎ もうバレたのか⁉︎


  中二病展開から逃亡する為、人の話など聞いていなかった故にパニックに陥る。


  皇真の頭を「嫌だ逃げろ嫌だ逃げろ」二文字が呪詛の如く占めていた。腕を掴む逞しい憧れの手が、今は自分を魔の世界へ誘う悪魔の手に映る。


「ちょっと待ってろ」


  そう言い急に右に寄り壁をノックした軸屋に応えるように、皇真達が立つ位置とは反対側の壁からドンドン音が鳴った。


「ここだな」


  解放されたと思いきや、今度は期待に満ちた眼差しで見つめられ後退りかけていた足が止まる。


「時間がない。壁を壊してくれ」


「…………」


  意味がわかりませぬ。


「さぁ早く」


  目の前には普通に硬い壁があり、普通の子供に『壊せ』と。


(これは)


  ヤーさんは既に俺がトンデモ携帯を持ってるのを知ってて言ってるんだ。つまり漫画やアニメで有りがちな、


『お前の力を見せてみろ』


  つーやつですか。


(嫌だ逃げたい嫌だ逃げたい嫌だ)


  だが壁を壊し力を示さなければ、到底逃亡は叶わず。


(やるしかねぇ)


  可能な限り派手に土やコンクリートが舞う勢いの。


  その煙に身を隠し。


(全速力で走るぞ俺‼︎)


  携帯を手に取り集中する。

 

(いくら憧れるヤクザでおろうが中二病の可能性あるなら別だ)


  何度味わっても『不思議な感覚』としか表現できぬ淡い光に包まれ。


(正義のヒーローなんざ……)


  頭の中のイメージが形創られる。


(クソくらえ)


  テープに括られた、端からコードが見える円柱形の三本の筒。


  中央に00:15と刻むデジタル時計が付くそれ。


  子供が持つには不釣り合いな


『時限爆弾』が、


  皇真の左手に収まる。


  目を見開く軸屋を無視し放ると同時に駆けた。


  ドォォオン


  後ろで鳴り渡る爆発音が耳をつんざく。

 

(今だけは感謝してやるよ)


  至近距離にいたであろう伊吹が巻き添えくっていようが走る。


(あの『クソ親父』に)


  倉庫の入り口へ差し掛かり、後は道路に着けば逃亡は成功だった。

  中二病野郎の内一人爆風による足止め混乱に乗じての脱走。そこまでは皇真の作戦は完璧であった。


「いってぇな‼︎」


  惜しむらくは逃げる方角を誤った事に尽きるだろう。


「なんだお前『ケイサツ』か‼︎」


  全力で走っていた皇真は調度爆発に気づき倉庫から出てくる先頭にいた少年と思い切りぶつかってしまった。


(痛いのはこっちだボケ。警察⁇ 頭キチってんのか……よ……)


  反動で倒れた身体を直し固まる。


  昨夜のモブ共よりガラの悪い少年三人が、本来あるべき用途に使われないであろうパールやバット・鉄パイプを手に自分を睨んでいた。


(The・不良‼︎)


  特にバット持ってる奴良いな。不良の手本みてぇー。窮地に立ってもやはり不良一番でジロジロ観察し黙りこくる皇真は、少年達が武器振り下ろそうとするのが見え漸く危険を認識した。


(あっ流石にヤバい)


  不良に憧れ一応武道の心得あれど無理だ。フルボッコになる。


(やれるだけやってみよう俺)


  ワンパンでKOはダサい。


  迫る鉄パイプを避けようと体を捻ったら、


「オグェ‼︎」


  唐突に皇真の視界から今まさに攻撃仕掛けていた少年が消えた。


  より詳しく説明するならば、白い残像と共に横に吹っ飛んだ。


(……え)


  皆が唖然と首を右に向けると、そこには倒れ伏す少年踏みつけゲホゲホ咳する。


「デメ''ェふざげんなよっっ‼︎」


  『粉砕したコンクリートの粉や木屑』を全身に被った伊吹武信が、宛らか弱いヒロインのピンチに駆け付けたようなタイミングで怒り露わにいた。


(言う事が中二なら登場まで中二ってか)


  お前がふざけんな‼︎


  こうなれば中二病ヤロウに全て押し付け逃げよう。不良達の注意が奴にある隙に。


  往生際悪く考える皇真の肩をポンっ後ろから誰かが叩く。


(…………ああ。ああああデジャブゥーー)


  今回は振り向かずともわかる。いやわかりたくない。

  矛盾した気持ちが心臓をずっしり重く感じさせる。


「ありがとう。君は賢いな」


  このヤーさんは口開けば訳分かんねぇ事しか言えないのか。


  後ろにヤーさん、前には武器を振りかざす憧れのだが敵な不良に、左は壁で右は中二病。


  (詰んだ)


  静かに皇真は年不相応な笑みを浮かべ悟った。


「逃げるぞ」


 ゴツいおっさんに手を引かれ、斜め後ろには従者思わせる動きでチンピラ牽制しながら付いてくる若き少年と街を逃避行なんて。どこの姫だ、俺。

 何事かと振り返り見る男性。人様の迷惑考えず大通り疾走する皇真達を怒鳴るおじいちゃん。携帯で写メっているのか何故か目をギラつかせてシャッターの光ほとばせるじょ──。


(薄井さんんんー⁉︎)


 遠ざかる、ほぼ毎日席が隣故顔合わせる見慣れた人影が親指を立てた気がした。


「前見ろ転ぶぞ」


 肩を叩こうとする伊吹を思い切り睨んでしまったのはわざとじゃない。自己防衛たる本能が働いたからだ。明日学校休みで良かったと理由はわからないが、そう感じながら皇真は走った。

※ワンパン=一発KO

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