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十二の異色が願い込めた裏切り携帯視界  作者: 北条 南豆木
第1章 五十嵐就活編
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十三話 面接 受からない 方法 (ヤーさんと五十嵐)

登場人物


軸屋(じくや)(たくみ)

  うっかりすれば寝てしまいそうなぐらい麗らかな休日の午後。仲間の見舞いに病院を訪れた男が彼と遭遇したのは、もはや運命なのかもしれない。


  平成36年 4月21日 13時14分


  男は今自分の隣で居心地悪そうに座る子供の警戒心をどう解くか検討していた。

  容姿が強面なのには自覚がある。だからこそ親しい間柄以外の者には常に笑顔を心がけているのだが、お近づきになりたい子は、オロオロこちらを伺っては地面へ俯くの繰り返し。逆効果に働いてしまっているようだ。


(こんな時に彼奴がいれば楽なのに)


  軽い左肩にチラッと視線が移る。

  話題になりかつ場を和ませる効果抜群である家族が恋しく思えど、盲導犬以外動物立ち入り禁止の病院には連れてこれないのだから仕方がない。


「喉渇いてなかったか⁇」


  なるべく優しく、昨日の詫びに弁当代と一緒に渡した自販機で買ったお茶を進める。

  バッタリ廊下で再会した時、怪我をしてしまったのかと案じたが知人の見舞いに来ただけだと言っていたし、そのような仕草もないので具合が悪いわけでもないはずだ。

  すると子供はビクりと肩をあげ握っている飲み物を見てから会釈をし蓋に手をかけた。


  少々慌てて蓋をあける姿に心中で舌打ちする。


(しくじった。これじゃ強要してるみてーなもんだ)


  この気まずい空気を変えなくては。固くなっている子供を観察し興味を引きそうな話題をふる。


「和柄好きなんだな」


  言いながら自身の膝を爪先で叩き「携帯のカバーも和柄だったし」と付け足したら、首を縦にぶんぶん振られた。


(……駄目だ。完全に緊張してやがる)


  無理もない。あんな事があった翌日予期せずして、俺みたいなのに話しかけられたら当然の反応だ。

 

  辺りは見舞いか検査しに来た老人や中年男女がちらほらうろつくぐらい、木々が適度に影を作る本来憩いの場である筈の白いベンチは二人の周りだけ重苦しい雰囲気に包まれている。


(遠回しに繕うよか、さっさと要件伝えるのが良策か)


  自分は敵ではないと理解させねば話しにならない。

  注意深く観察している事を悟らせぬよう軽い調子で男は自身の名を語った。


「昨日はありがとうな。遅くなったが俺は 軸屋(じくや) (たくみ) 。君が助けてくれた伊吹武信の保護者代わりをしてる。よろしく」


  飲み終わったのを確認して、今更だが挨拶の言葉と共に手を差し伸べる。


  そこでようやく子供は口を開いた。



「え、ぁ……五十嵐 皇真です」


  握手に応え名乗られた名前に、部下の報告通りだと改めて感じる。


 

  五十嵐皇真。十三歳。母子家庭。部下である伊吹武信と同じ学校に通っている中学二年生。


  ハーフのせいか日本語が苦手らしくクラスメートでさえ声を聞くのは稀であるものの、感情が顔に出やすい性格とジェスチャーまじりの疎通により学校生活は滞りなく過ごしている。

 

  女子に絶大な人気を誇り男子から嫉妬の対象になっているのはご愛嬌。



  因みにこの情報全て、噂好きな女子の会話を盗み聞きした結果であるのは伊吹だけの秘密だ。



(無口ってのはやりづらいが……)


  先手が打てる。お喋りな輩より自分のペースに乗せやすい。

  瞳の奥にある感情を笑みで隠し、まず一手。

 

「今日お茶に誘ったのは、礼を言いたかったのもあるんだが」


  言葉を切り五十嵐の瞳をしっかり見つめる。


(動揺してんな)


  瞬きの回数や息遣いが躊躇に変化している。正直演技ではと疑いたくなるレベルだ。


(この先何言われんのか不安なのか)


  それはつまり訊かれたくないことがあるという意味だ。

 

  たっぷり焦らし沈黙を破った。



「たけ……伊吹について聞きたかったからなんだ」


  軸屋の作戦は実にシンプル「上げて落とす」

  わざと恐がらせてから安心させ、気を緩めさせた隙を付け入る。

  敢えてLEP(超能力)の事は避け、友人の話題をすれば過保護な親とでも受け取り警戒心も弱まるだろうと考えて。


(あれ⁇)


  だが世の中そう上手くいかないのが常である。


(えー。なんでだよ)


  胸をなでおろし朗らかな返答がくる未来を描いてたのに、


「…………」


  返ってきたのはこの世の終わりみたいな顔であった。しかも何時でも逃げれるよう腰を浮かし臨時体制だ。


  真昼間外で幼気な子供を脅すいかつい大人の図。


(いかん)


  仮にも元警察官が通報なんざ洒落にならん。


  最近の中学生は難しい。わりかしどうでもいい教訓を軸屋は得た。



 ***



  皇真は今絶望していた。


  自分はただ昨日あまり居れなかった大事な子と過ごす為にここへ来ただけなのに、何故生命の危機を感じなくてはいけぬのか。


(いや、わかってるんだよ)


  おたくの坊ちゃまに怪我(やけど)負わせたからですよね。

「軸屋」と名乗ったヤーさんが茶に誘ったのは昨日晒してしまった超能力(おっさん)の所為かと思っていたけれど。


(やっぱりストイックだ。トンデモ現象より仕事優先なんて)


  そういえば昨日も突然出現し消えたマットより坊ちゃまの心配してたよな。流石です。


  この後俺はボコボコにされてしまうのか。

  最初から怖い程ニコニコしてるのは「さぁこのガキどうしてやろうか」って思惑で、「ありがとう」と瓦礫の海に埋もれた多過ぎる弁当代は「口止料」かなんかで。

  『昨日の礼』はつまりそういう意味だよな。


 丁度いいことに、ここは病院だしある意味……ツイてる⁇


  あっ、入院するならあの子の隣にしてもらおう。


  なんて皇真のズレた思考は軸屋が少し慌てて続けた内容によって、さらなる勘違いへと飛躍する。



「訊いたらまずかったか⁇ ほら彼奴協調性ないだろ。学校で浮いてないか不安で知りたかっただけでさ。出来ればこれからも『伊吹をよろしく頼む』って言いたかっただけだから」


  そう構えないでほしいとバツが悪そうにまくし立てるヤーさんは親馬鹿にしか見えないが、皇真はまったく異なる見解をしてしまった。


  (あ、そっちか)


  ボディーガードになれって意味か‼︎

 

  生憎皇真の真意を軸屋は知る由もなく「なんかよくわかんねぇけどスカウトされてれんだ俺‼︎ これは面接なんですね」と、期待に輝く瞳を「優しい義父なんだなぁ」そう思ってくれたと捉えた。


  互いのどうしようもないすれ違いは僅か数時間後。



  ピピピピ


「すまない。直ぐに戻る」


  軸屋にかかってきた一本の電話が、皇真の地獄への就職きっかけとなる事で正される。



「あ''ぁ⁉︎ なんだって‼︎」


  いきなりの大きな声に皇真だけでなく、通りがかりの人々まで驚き足を止め怒鳴る軸屋へ怪訝な表情を向けた。


「彼奴はなんでっ、……ああ。そこなら俺が今近くにいる」


  そのまま幾つか話し携帯を仕舞いベンチへ駆けてくる。聞こえてきた言葉からして『彼奴』とやらがピンチっぽい。


(……あいつ⁇ ハッ‼︎ もしかして)

 

 

  坊っちゃま兼伊吹武信ではないか⁉︎

 

「わるい。茶に誘っといてなんだが仕事が入ったからまたこ」


「行きます‼︎ 俺も‼︎」


  閃いた勢いで軸屋が早口に急用を伝え終わる前に、咄嗟に袖を掴み宣言してしまった。


  自分を見下ろす丸い目に我にかえる。


「えあ、そその、ちゅうゴッホン。い、いぶきクンでしよね。彼奴って⁇」


  言ってから後悔した。


(噛んだっ‼︎ 『でしよね』ってなんだよ⁉︎)


  だいたい彼奴が中二病野郎を指してるのかも知らず、実は赤の他人でしたならば自分は相当恥ずかしい思い込みをした事になってしまう。


  どうか、どうか合ってますようにと願い待つ皇真を、瞬きもせず見つめていた軸屋の口が開く。



「……なら、頼むわ」


  承諾にパァーッと周りに花が舞い散る。


(よっしゃぁーー‼︎ 良かったマジ良かった‼︎)


  喜んでいると苦笑しながら「但し」と釘を打たれた。


「絶対に無茶はするな。俺の後ろにいてくれ」


  首がもげそうなぐらい振り答えれば、分かり易すぎる反応が面白かったのか、軸屋から笑い声が漏れる。


「素直でよろしい」


  お褒めの言葉まで貰え心踊り行く場所は決して遊園地などではないが、夢色パラダイスへ広がるのだ。


「走るぞ」


  導く声に従い立ち上がる。



(初仕事。あの中二病守るのは嫌だけど頑張っぞ俺‼︎)


 

  皇真はいい加減学ぶべきだった。

  自身の期待は何時でも裏切られている現実を。

 

  危険に足を踏み込もうとすれば、いつも口うるさく人前であっても「怪しい人に着いて行っちゃダメだよ」と、電話を装い注意する叶空が大人しくズボンのポケットに収まっている事にも疑問に思うべきであった。


 そうすれば今後襲い来るショックも薄らいだろうに。

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