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十二の異色が願い込めた裏切り携帯視界  作者: 北条 南豆木
第1章 五十嵐就活編
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十一話 (五十嵐と不良少年と哀れな少年と気分屋)

  くそっ‼︎ 歩けやしないっ‼︎


  テレビや学校で習った「震度五以上だと人は歩けない」なんて大袈裟だと思っていた。しかし遭遇すると立っているのも難しい有様だ。


  余震もなくいきなり起こった地震は納まる事を知らず、皇真等の足場を今もなお脅かし続けていた。天井からパラパラ砂が降り始め、床に亀裂が走る。

  経験した事がない激しい揺れ、このままでは建物の下敷きになってしまう。


(どうする どうするどうする俺)


  ビルがついに後方へ傾き出し息を呑む。もはや降り逃げるのは諦めざるおえない。



「皇真君っ‼︎」


  耳に今まで忘れていた、馴染みある声が自分を呼ぶ。


  そうだ、おっさんの超能力使えば‼︎


  焦りモタつく指でポケットにしまってある携帯を引き抜く。目を瞑り集中するが。


(ダメだ。これじゃ天井からくる瓦礫に埋もれちまう)


  何か、何か降り注ぐ瓦礫、崩れる地面を防げる物はないか。半ばパニックで纏まらない思考に苛立ち精神が乱れる。


  こんな意味がわからない理由で死ぬ訳にはいかないのだ。


(あいつが、守らなきゃいけない奴が俺にはいるんだよ‼︎)


  コンクリートが割れぶつかり合う騒音の中、


「──」


  神に祈る気持ちで、大事なあの子を想いよせる。

 

  突如ふわりと皇真は己が浮いた感じがした。


「……え」


「しっかり掴まってろ」


  逞しい腕を腰にまわされ脇に抱えられたのだと理解するのに数秒かかった。

  右側では銀髪の彼が皇真と同じく強張った表情をしている。


  一体どうするつもりなのか。うるさく高鳴る鼓動を服越しにぎゅっと握りしめ男を見やる。


  男は両脇にしっかり自分達を持つと、傾く床に逆らいドスドスふらつきながら進み出した。何処に行くんだと視線を前にして男の向かう先に気づき、ただでさえ青い顔から血の気が引く。


(飛び降りんの⁉︎)


  反論する暇もなく、男の足が窓枠を踏む。

 

「いいな。体丸めてろ」


  男が言い終えた瞬間目に映る光景は崩れ去ってゆく悲惨な部屋じゃなく、遠くぼやける汚い地面と瓦礫の海へ。少しの浮遊感の後に、勢いよく下に引っ張られる感覚。全身を叩くように冷たい空気が重力に従いぶち当たる。


(〜〜っ‼︎ ま、ままマジかよこのやろぉおー‼‼︎︎)


  誰に文句をつけてるのかさえわからない恐怖と怒りを心中で吠えてる内に、みるみる遠かった地面が接近していく。


(潰れたトマトになるぅうう‼︎)


  トマトになるまで数メートル。一刻の猶予もない。

 

(冗談じゃない‼︎ ふざけんな‼︎)


  文字通り必死過ぎて自分でも何がなんだかわからないが、生き残る為皇真は右手で携帯を握りしめ、ある物を思い描き左手を地に向けた。そして心の中で叫ぶ。


 

  『想 像 創 生‼︎』



  まっすぐ伸ばした手のひらに集結した煌めく粒子が、皇真等の真下へ龍かの如く渦巻きぶつかる。


(間に合えっ‼︎)


  拡散した光が色づき形となる。


  虫ぐらいしかいない静かな工事現場に鈍い衝突音が響いた。



 ***


「……ん」


(ここは。オレ、何してたんだっけ)


「おっ、気がついたか」


(……長官⁇ そうだビルが‼︎‼︎)


  微睡んでいた意識が鮮明になり、不良じみた少年は勢いよく身を起こした。が、頭がぐらつき直ぐに戻ってしまう。


「あー、まだ寝てろって言いたいとこだが」


  起き上がる事が出来ず顔を歪ませ寝転ぶ少年をひょいと背中におぶり男は歩き出す。自身の非力さが悔しく、また軽々持ち上げられてしまうのにも複雑な少年の謝罪は情けないものだった。


「ス、スンマセン」


「いや。こっちこそ起きたばかりで無理させてすまん。今の音聞きつけた住人が駆けつけるだろうからな。早く退散するぞ」


  原型など欠片もなく崩壊したビルを横目に「派手に壊れたもんだ」そう小言を零す男へ、少年も自分達がいた場所を眺める。


「長官オレら……」


「感謝しろよ、あの友達に」


「へっ⁉︎」


  素っ頓狂な声をだす少年を気にとめず男は早足に歩を進める。


「帽子屋とこ行くぞ。何しろ四階から落ちたんだ。骨にヒビ入ってる可能性がある」


「え、まっ待って下さい‼︎」


  切羽詰まった様子に、ようやく相手はこちらを振り返った。


「友達って……」


  不思議そうな表情で一言一句確かめるかのように言う少年に、男の方が怪訝な表情になる。


「一応確認する。おまえ自分の名前言えるか⁇ ついでに好物」

 

「そこは普通生年月日じゃありません⁇」


  疑問を無視し顎をくいっとあげ促す男に、口ごもりながら少年は答える。


伊吹(いぶき) 武信(たけのぶ)。好物は……メロンパンです」


「んな恥ずかしがるような物じゃないだろ」


「女みたいじゃないですか。甘いもん好きだなんて」


  笑わずフォローされても、どこかばつが悪そうにボソボソ呟き俯く少年に「味覚に性別は関係ない」と返した男は脳に異常はないと判断し重ねて質問した。


「それであの男前さんは誰なんだ⁇」


  少年こと伊吹の脳裏を白金髪のいけ好かない奴がかすめた。

  厚めの髪は軽く跳ねさせ小洒落た雰囲気があり。バランス良く配置されたパーツ。白い肌が際立たせる、青みがかった灰色の瞳を形取る三白眼が凛々しさを生む顔は、男の言う通り十中八九イケメンの部類だ。見る者に快く感じさせるだろう。


  しかし、


「友達じゃありませんよ。昼報告した『暴走族』かもしれない奴です」


  どうにも気にくわない。何げなく、ずきずき断続的に傷む鎖骨にある焦げ跡へ意識が移る。


(……わかってる)


  あっちからしてみれば正当防衛だとわかっている。急に仕掛けた自分に非があるのだって理解していた。特質嫌う要素はなく、でも奴を前にすると何故かムカつく。敢えて理由を挙げるのなら『生理的に合わない』のだ。


「でもあの子。お前を助けようとしてたぞ」

 

  五十嵐 皇真を思い出しイライラしていた伊吹に晴天の霹靂とも言える事実が告げられた。

 

「ん⁇ 昼話した子は能力『火』だって言ってなかったか⁇」


  目を白黒させる伊吹を知ってか知らずか男はポンポン喋る。


「まぁいいか。にしても久々に見たわ、オレンジ色の重圧マット。学生の時以来だな。俺ら助けて直ぐに去ってく姿は本当『ヒーロー』って感じだった。あーそれから弁当代弁償しないとな。武信あの子の連絡先頼む。ついでに」


「え、え⁇ あの、ちょっ」


  次々に言われる内容についていけず、止めようにもニヤリと確信があるのだと主張する強い眼光に言葉が詰まった。


「勘だが、あの子は『暴走族』じゃない。どっちかつーと暴力沙汰は苦手に見えたよ」


  あいつのどこを見てそう捉えたんだ。反論しようとした声が喉で留まる。



『……わりぃ』


  自分で傷つけておき、何かに耐えるように寂しそうな表情をしたあいつ。

  同時にヤりあっている最中と階段での不敵な笑みがせめぎ合い、結局半開きの唇は結ばれた。

 

  ピロンパロンピロロォン


  沈黙が流れる二人の間にいきなり軽快な音楽が鳴り思わず体が跳ねる。


(誰だ⁇)


  ゴソゴソ身じろぎし携帯を取った伊吹は、画面に表示される名前に表情が緩んだ。


「誰からだー」


「チィです」


「そりゃ好都合」


  通話ボタンをタップすれば耳元で予想通りのふざけた挨拶が聞こえた。


【ハローハロー ご機嫌麗しゅう⁇ 伊吹さん】


「イマイチだな。何の用だよ」


  おぶられている状態の為、電話越しの声は男にも届き苦笑される。


【お二人に大事な話があるのでスピーカーにして頂いてもよろしいでしょうか】


「……大丈夫だ。充分聞こえてる」


  顔をずらし男が教えると、電話口から僅かに驚いた気配が伝わった。


【そんなに私の声おおき……ハッ‼︎ 電話の音聞こえるぐらい密着されてるんですか⁉︎ お二人ってそういう】


「「ちがうわっっ‼︎」」


  あらぬ誤解に反射的な否定が被る。いつもそうだ。くだらない茶番を挟まねばこの電話している相手は本題を喋らない。


(まぁそれがチィの良いところでもあるんだけど)


「んなことより、俺ら今そっち向かってるんだが帽子屋起きてるか⁇」


  付き合ってられないと、男が無理矢理話を戻す。


【ついさっき帽子屋の部屋の前に最大音量に設定した南無妙法蓮華経セットしてきましたので、お二人が着く頃起きるかと】


「なんでそれチョイスしたっ⁉︎」


  (起きるどころか永眠するっつーの)


  明らかに間違てる選曲におかしくなり笑う伊吹とは対照に男は不機嫌そうに目を細めた。


「……やっぱりか」


  小さく落とされた呟きの意味がわからず伊吹は疑問の眼差しで男を見つめる。


「相変わらず耳ざといな」


「⁇」


【偶然ですよ。近くを通りかかった仲間内から貴方方が入ったビルが崩れたと連絡きまして】


「チィ知ってたのかよ⁉︎」


  驚きつい叫んでしまった伊吹を男が軽く睨んだ。


「スンマセン」


「変だと思ったんだ。最初から俺ら二人が一緒にいる前提での物言い、タイミング良くかかってきた電話に帽子屋へのアラーム」


【流石長官さん鋭いですね】


  男の指摘にハッとなる。確かに今までの会話を振り返えれば、伊吹が現在一人なのか複数で居るのか問いもせず、『お二人に大事な話』と断定した言い方だった。


【けれどお二人がそんなにアツアツとは知りませんでしたよ】


「だからっちげぇって」


「それで、知ってて連絡よこすっつー事は急ぎなんだろ」


  語幹を強め暗にさっさと話せと要求する男に潔く相手が口にした言葉は、たゆんでいた雰囲気を変貌させた。


【これは他言無用でお願いします。お二方だけの胸にしまって下さい。情報屋ではなく、友人としての忠告ですので】


「……wonderland(ワンダーランド)の連中にも⁇」


【そうです】



  伊吹は一瞬息をするのを忘れた。己の仲間にさえ真率に語れない『忠告』如何なる意味合いがくるのか。胸騒ぎを覚える不穏な空気に爆弾が投下される。



【五十嵐 皇真 さんには関わらない方が身の為です。彼は────】



『ありがとうございましたぁ』


  翻って、二度目のコンバンワを果たし弁当袋を下げ家路に着く皇真は憔悴しきった顔で独りごちる。



「炊飯器の方が 価値、あったな」



 ***


 平成36年 4月20日 19時00分


  埃・ススが積もる手入れがされていない、某倉庫内に年若い青年の怒りが反響する。


「こんっのボンクラ共‼︎ 隠忍自重も出来ひんのかぃ‼︎」


  八つ当たりに蹴り上げられたバケツが、宙を舞い対峙する五人の少年達の一人にぶつかった。


「いっ‼︎」


「めでたいのは髪だけやのうて脳みそもなん。今ワイが多忙なの知っとるよな⁇」


  目尻を吊り上げ射抜かれた憐れな金髪の少年は、行き所がない視線をうろうろ彷徨わせている。


「は、はぃもち……」


「ワイの目見て答えてみ」


  怯えつつも憐れな少年は逆らえず、しっかり視線を合わせ震える唇を動かす。


「はい 知ってい」


「嘘こけっっ‼︎ 知っとたらこんなんするわけないやろ」


  ひでぇ。青年以外の者達が抱いた感想だ。余程鬱憤が溜まっているのか青年はまくし立てる。


「お前らの気持ちもわかるで。彼奴らウザいよなぁ、ほんまウザい。ウザい。ワイが誰よりもわかっとる。特攻隊長はん今LEP使えんし、ひよっこりワイらのテリトリー入って来よったらそら潰しとうなるやろな」


  勝手にうんうんと頷き同調をする青年の様子に、少年達は希望が芽生える。


  これは……いけるのではないか。

  お涙頂戴すれば許してもらえるのではと。


  しかし次に紡がれた発言で甘い考えだったと痛感した。


「けどな!! ビル一個お釈迦にすんなら事後報告やのうて、事前事告にしろや。誰が欺瞞ぎまんする思てんねん!!」


「ぎ、ぎまん⁇」


「世間様の目ぇ誤魔化すことや。覚えんでいいよ」


  その後もグチグチ説教、半分は蹴られたバケツと同じく八つ当たりが続く。

  まずい。このままでは下手すりゃ除隊されてしまうかもしれない。どうにか便宜を図ろうとした憐れな少年は、延々に説教たれるかと思った青年の意外な言葉により救われる。


「でも今回はお前らの度胸に免じて許してやるわ」


「へっ⁉︎」


「謙遜せんでもええって。自分達餌におびき寄せビル諸共壊すして道づれしよなんて、大したもんやで」


  ちゃっかりテレポータ連れて来てんのも高得点や。そう言い残し青年は労りを込め肩を叩き踵を返し帰ってしまった。

 

  ポカン


  今の状況を例えるのならそう表すのが的確だろう。全員があんぐり顏で「萎縮しちゃう程腹立ててたのは何だったのか」具合いである。


「助かった……だよ、な⁇」


  最初に微妙な空気を破いたのは誰ったか。その呟きを皮切りに、へなへな座る者やガッツポーズを取る者など皆が安堵の息を吐く。


「あーよかったぁあ‼︎ てかさ、ビルのことだけど……」


  憐れな少年の隣にいた仲間が言いかけて、皆が自分と似た感じになったのに気づき止めた。


「ラッキーだった。で良いんじゃねーの」


「そうだよ。お陰で俺達助かったんだし」


  楽天的な意見が飛び交う中、憐れな少年のみ判断しかねる面持ちで仲間に問う。


「なぁ 本当に……」


「すまんすまん。聞き忘れとった」


「どぅわぁああ‼︎」


  ぬぅっと去った筈の青年がドアから顔を覗かせ登場したことにより、少年達に又もや緊張が訪れる。

  驚かせた青年は罪悪感など微塵も窺わせない声色で謝り口を開いた。

 

「長官はんと一緒にいた子。ほんまに全員見たことない子やったんよな⁇」


「はははいぃぃ‼︎」


「そうかそうか。ほな」


  それだけ尋ねられドアは閉められた。しばらくの静寂の内、青年が完璧に去ったと認識するや今度こそ皆尻餅つく。


「なんだったんだ」


「さぁ⁇」


  憐れな少年は思う。


(油断ならない人だ)



  これは絶対に隠さなくては。


  実はビル破壊について自分達が、全く関与していない事実を。

  ただでさえ気分屋な人なのだ、機嫌損ねるマネすれば恐ろしい未来が待ち受けているのは想像に難くないのだから。



 ***


  憐れな少年に気分屋と称された青年はネオンの光、雑音ひしめく街を背景に深く考え込んでいた。


(どういうことや)


  余計な仕事を増やしたボンクラ共が話した情報を反覆する。


  いきなり乱入してきた長官、そして守られるように側にいた、見慣れぬ白に近い金髪頭推定13・14歳の子供。


  子供に対し何故いるのかと仰天した特攻隊長。


  言葉を濁し誤魔化した長官。


(隠し球おるなんて聞いたことない)


  特攻隊長の顔見知りなら、まず『ケイサツ』で相違ない。だが目視すべきは子供がその場に存在することに、意外な態度を表したこと。入社したての新人が来たのなら納得出来る。

  だが長官の性格からして、手解きする為に危険な場所へ単なる新人を連れてくるとは思えず。偶然一緒にいて援助しに来たとも考えにくく。


(ちゅーことは単なる新人ではなく、早い段階で実戦積ませたい戦力か、そもそも新人じゃない⁇)


『ケイサツ』総司令官たる男直々に守られかつ、幹部の特攻隊長にさえ曖昧な知らせしかされていない。


  導き出される可能性は『秘密裏にされてる人物』が、なんらかの目的を持ってあの場に長官と共に来た。


(…………あかん)


  これ以上はわからん。有耶無耶な話少な過ぎる情報。お手あげや。

  首を回し凝り固まった筋肉をほぐす。


『ご主人様ご主人様、御電話ですわよ』


  イヤホンから己を呼ぶ気取った声に不機嫌丸出しで応える。


「誰や」


『ご主人様が尊敬してるお方』


「ホンマに⁉︎ ちょい早よ繋いで」


  その一言でころりと愉しげに口元をにやけさせた。

 

【────】


「ぼちぼちやね。流石師匠や、相変わらずグットタイミング。今ちょうど連絡しよか悩んでたとこ、んでな……」



  この日均等を保っていた、ある組織三つに綻びが生まれた事を今はまだ誰も知る由もなかった。

作者は東京生まれ東京育ち、つまり地方の言葉はエセしか使えません。

一応今回登場した青年は関西風の喋りです。


隠忍自重(いんにんじちょう)=じっと我慢して堪え忍ぶこと。

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