一話 プロローグ 現在
初めまして。
リアルに自分にもあるからもしれない
そんなドキドキ感と共感性をして頂けるよう書いてます。
誤字・脱字ありましたらご指摘よろしくお願いします。
登場人物ふりがな
五十嵐 皇真
晴樹
あー、『転職』したい。
平成36年6月20日 17時45分
広さ八畳のコンクリートが剥き出しの壁と床の部屋。ケイサツ本部作戦会議室にて思うのは毎回これだ。
会議室にある大きなテレビが、連日繰り返し報道されているニュースを流す。
『──今日で事件がおき三日目となりますが、依然として有力な情報は得られていません。今月の十七日、○○区の大通りの交差点に突然、およそビル三階分の高さから落下してきた***君十六歳。
搬送された病院にて、未だに意識不明の状態です。警察は引き続き調査を……』
テロップには、[なにもない場所から突然人が⁉] [異次元空間現る‼?]と何も知らぬ者であれば嘲笑うであろう文字が並んでいた。
(今度は異次元かよ)
自身の知り合いが話題の中心になっているニュースを、特に何も感じずぼんやりと眺める。
***
今東京都を中心に不可思議な事が立て続けに起きている。
『突如出来たミステリーサークル』『無差別爆撃する透明人間』『街中で起きるポルターガイスト現象』 挙げたら切りが無い。
それらはネットやSNSなどでもよく取り上げられており、伝言ゲームの要領で情報は拡散していき、最近では『自殺した悪霊達の祟り』なんて噂が出る程に人々に蔓延している。
古来から妖怪やオバケの存在思想があるに加え、他国に比べ自ら命を絶つ者が多い日本らしい発想。
なにより、先に述べた怪奇じみている事件現場いくつかが、自殺の名所であったのも噂を膨張させるのだろう。
この都市伝説化しつつある事件が現在会議室に彼がいる理由だ。
***
ケイサツに入り早二ヶ月。仕事にも慣れてきたせいか、緊迫した場であるのに気が緩む。下手すれば立ったまま寝そうになる意識は『バンッ』と何かを強く叩いた音により引き戻された。
「それじゃ奴ら尻尾出したんですね‼︎ ならアジトもわかったんですか⁉︎」
見れば人が十人は着けるであろう立派なテーブルの真ん中で、ケイサツの幹部である少年が両手をつき身を乗り出している。
(……アジトとか、言い回し止めろ)
いきり立つ少年の向かいに座る人物。この場で一番の最年長である男は、静かに口を開く。
「そうだ。だが、この件に関してはお前じゃなく他の者に任せる」
「なんでですか⁈」
「アホんだら。その沸騰した頭冷やしてからこい」
(なんつーか、だから言いかたがなぁ)
注意された言葉に自身が冷静でないのを自覚させられたらしく、少年はうなだれ悔しげに唇を噛むだけでそれ以上何か言う事はなかった。
男は落ち込む少年にかまわず淡々と続ける。
「今回の作戦指揮及び実行は、晴樹……と」
左横で晴樹と呼ばれた青年が頷くのを確認するといったん間を置き、今度は部屋の端、ドアに近いところにいる少年の方へ向く。
(目、バッチリあっちまったよ。おい、おい!! 完璧ロックオン状態じゃねーか)
「皇真 お前等二人に一任する」
男が告げ終わると同時に、うなだれていた少年がガバリと顔を上げた。そして素早く後ろを振り返り、皇真 と呼ばれた人物を射殺さんばかりに睨む。
(ガンつけんじゃねーよ。むしろ代わって欲しいぐらいだわ。 なんでケイサツに入ったんだろ、俺。こんなんなら暴走族か、せめて学校に入ればよかった)
己を睨む少年以外からも視線を感じ、辺りを見渡せば、おもに十代から二十代ぐらいの男女が十数名。
今巷を騒がせている事件を、解決させる為に集められたメンバーだ。
このメンバーはある一部のものたちから[ケイサツ]と言われている。
しかし、言葉通りのものではない。明らかに未成年も混ざっているこの集団は、世間一般の警察ではない。
もちろん、彼が頭の中で呟いていた[暴走族] [学校] もその名はただの敬称にすぎない。
ただ、[ケイサツ] [学校] [暴走族] この集団には二つの共通点がある。
一つは、話しの渦中[怪奇現象事件]の主要者達であること。
そしてもう一つは──
無言を肯定とみなした男は、さっさっと話を進めていく。彼はただ己の現状を嘆き、意識が飛んでいただけなのだが。
(つーか、幹部を置いてなんで俺なわけ?? いや、だって、ここ入って二ヶ月しか経ってないんですけど⁉ 俺‼︎ んで、この場の空気が)
責任者決めが終わり次の指示を飛ばす男とメンバーの会話が、端々に聞こえる。 「仰せのままに」「必ず薄汚い暴走族共を狩ってきます」など。
何故だと、軽く額を押さえる。青年 晴樹が近づいて来るのを、横目に捉えつつ、心中で盛大に怒鳴った。
(あああ‼ 中二病くさ過ぎるんだよっ‼︎ うぜぇぇぇ、仲間ごっこならよそでやれや!! 俺を巻き込むなぁぁああぁぁ‼!!)
怒りに震えうつむくと、測ったようなタイミングで手に持っている携帯が震えた。
画面には、長髪赤髪の中年男性が「ガンバレ」と書かれたボードを、頭上に持ち上げ、左右にリズムよく揺れている。
(うるせぇ、黙れ。この元凶め……クソっ。あーマジ騙された)
具合の悪いフリをして逃げ込んだトイレの個室で、彼は携帯の画面に素早く文字を打つ。
『彼奴らの居場所がバレた。直ぐに移動させろ』
(あー、いつになったら『転職』出来んだよ)
こうやって隠れてする情報リークの点数稼ぎは一月ほど経つ。そろそろ『転職』許可されても良いのではないか。
送信完了したのを確かめてから、怪しまれぬよう何食わぬ顔して会議室に戻る。
(つかマジなんでケイサツ入っちまったんだろ俺)
『ケイサツ』自分にとっては『仲間もどきの集団』を眺めながら、皇真は今日からちょうど二ヶ月前に思いを馳せた。
──三つの集団の共通点。
もう一つは、全員がある特別な携帯の保持者であること。
そして、これは普通より、かなり外れた価値観を持つ高二病な少年が、ヒーローになるまでの話しだ。
読んでくださった皆様ありがとございます。
登場人物に関しましてかなり特殊な読み・当て字がいますので、前書きにふりがなを書いています。
物語の都合上書けない場合もありますがご容赦ください。
※高二病、主に高校二年生ぐらいに見られる病的な思考で「中二病を毛嫌いする」「酒・煙草に憧れる」「悪ぶっている姿がカッコよく思える」などの特長が挙げられる。
※中二病、漫画やアニメのキャラクターじみた「正義感溢れる熱血漢」「謎めいた言動」「自分は人外・特殊な生き物、もしくは生まれ変わりだと思っている」といった振る舞い・思考を持っている人々を指す。
※高二病と中二病はその作品によって微妙に捉え方が異なる。