さらに場所移動へ――回想シーン突入
「離してっ」
「へへへっ、おとなしく俺達についてこいよ」
デジャヴ――忙しい彼にとって全然有り難くないものは目の前で起こっていた。
十人が見て、おそらく十人がならず者かごろつきだと思う容姿の男数人が嫌がる少女を無理矢理連れてゆこうとする。
騎士団の見回りでこういう輩は激減したはずなのにと心の中で呟き、ヴァルクは腰の剣を鞘ごと抜いた。
「もうっ、なんでこう……」
「なんだ、てめぇは!!怪我したくなけりゃとっとと失せな」
哀愁らしきものを身に纏い、剣を握ったまま歩いてくる少年にようやく気が付いた男達の一人が無個性な台詞を吐く。
「俺達は忙し」
その行為を後悔する間は与えられなかった。次の一言を言い終えるより速く、人の形の疾風が床を這うように駆けて男のあごを殴り飛ばしたからである。
動体視力に自身があるものなら、それが剣の柄で行われたことを見抜けたかもしれないが、この無頼漢達にはそこまでの身体能力はなかった。結果、十数秒後には、少女と少年以外、立っているものは居なくなる。
「あの、ありがとう……」
助けた少女の例の言葉を頷きで返しながら、ヴァルクは現状にも似た過去の光景のあることを再び思い出していた。
もっとも、当時はこれほど気が立っていなかったから相手には手加減をした記憶がある。たたき伏せはしたものの、捨てぜりふを吐いて逃げる程度の余裕はあった過去のごろつきとは違い、今回の男達は呻ったり痙攣したりしつつ、未だに地面に転がっていた。
この状況下で思い出すのも皮肉な話……あれはキルヒアイス騎士団長と初めて会った、『新任者歓迎式典』当日のことだった。