彼の日常(続き)
それも慣れたと言えばもう慣れたのだが、今日に限って団長の姿がグヴァン・ヘイルの何処にも見あたらないのだ。
騎士団長がこの城塞から外に出かけることは滅多にない。あるとすればよほど重大な事態が起きたか、半年に一度の見回り、もしくは個人的な私用のどれかであるが、ヴァルクの知る限りでキルヒアイス団長が外に出たのは2度しか無く、この日も団長が外出したという可能性は0だと判断していた。
「おかしいなあ、いつもならもうそろそろ見つかる頃なんだけれど」
団長が気に入ってる場所は、知る限り全部探した。まだ探していないのは大隊長クラスの私室だけである。
まだまだ新入りであるヴァルクとしては、大隊長の部屋にずかずか入ってゆくのは気が引けたし、七人いる大隊長の二人は女性のため、彼女たちの部屋にゆくのはいっそうためらわれる。
取り敢えず、副団長として七人の大隊長とは顔を合わせているので顔は解るのだが、七人全員と親しいわけではなく、最古参の老騎士ガウルグ・フォウンタイトに対しては特に近寄りがたいと感じた。
齢60を過ぎた白髪交じりのこの老騎士はもう30年以上この騎士団で大隊長を勤めており、キルヒアイス騎士団長よりも歴史は古い。とはいっても必要以上に厳格でも頑固でもなく、ヴァルクがこの老騎士を苦手なのは新入りである引け目がそうさせていると言う自覚があるし、ヴァルク自身この問題は時間が解決してくれると思っている。
「大隊長の部屋にゆくべきかな?」
腕組みして考えては見ても、なかなか決心は付かない。大隊長の一人、ゼオライトはつまみ食いでもしてくるといって先ほど厨房方面に歩み去ってしまった。
残る六人のうち二人が見回りに出て外出中。これは本日の日程報告書という書類に、朝方目を通したから間違いはないし、事実、先ほど団長を捜しに散策した時、大隊長クラス以上の乗馬が三頭ほどいなかった。そう、三頭ほど。
「三頭?!」
ヴァルクは慌てて駆けだした。