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ただ救いなのは、元気に育ってくれている娘のことと、暖かく接してくれる妻の存在がとても大きなものだと言うこと。独身だったら、病気の辛さでとっくの昔に自殺していただろう。それを踏みとどめてくれている存在は、何にも変えられないものだった。本当の意味で、
『生命の恩人』
である。結婚前にはまるで考えられないことだった。妻と娘のことを考えると、
『何があっても生き延びなければ』
と思う。
一服しながら、ジャージのポケットからケータイを取り出した。娘と妻の写真が待ち受け画面だ。苦しい時・辛い時。これを見て自らを奮い立たせているのだった。ついでに時間も確認する。12:29。そろそろ行かないとマズい。
タバコをもみ消し、『ヤニ部屋』を出る。何が降りかかるのか想像も出来ないまま、管理棟の階段を上がる。ちょっとだけためらって、課長室のドアをノックした。
「どうぞ」
「D棟の越谷です」
「あ。入ってください」
「失礼します」
心臓がばくばくし始めた。どんなことを言われるのやら。