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歩き始めると、背の高さから来る猫背がひどい。汚れてもいいボロボロのTシャツにジャージと言うスタイルだが、痩せているため骨ばった四肢が貧弱さに拍車をかけていた。顔も頬骨が少し目立っている。髪は丸坊主に近い短髪で、ワックスを使ってつんつんに尖らせていた。猫背なのは、自宅のドアが全て180cmで作られているため、自然になってしまったのだった。こうでもしていないと、部屋の出入りのたびにアタマをぶつけてしまう。
そんな越谷だったが、休憩時間ぐらいは自由に使いたい。ランドリーに隣接された、通称『ヤニ部屋』に入る。スモーカーたちも仕事が忙しいからか、他に誰もいなかった。夏の盛りは越えたが、まだまだ暑い日が続いている。『ヤニ部屋』の涼しさに、少しばかりほっとした。一服付けて、大きく煙を吐く。
(善し悪し、どちらの呼び出しなんだか)
うーん、と伸びをする。日勤なので、作業や外出が無く、事務仕事に専念出来るのはいいのだが、そんな時に限って呼び出しが来る。
(昨日の。処遇計画にケチが付いたかな)
その可能性が高い。――でもそれなら、棟長から注意が来るだろう。やはり分からないままだ。
(あーあ。考えてても仕方が無いか)
灰皿にタバコをぐしぐしして、越谷は課長室へ向かおうとしたが、何とも言えぬ不安がアタマをもたげ、もう1本だけ吸うことにした。
(どうしても。イヤな予感ばっかり浮かぶ)
ぐるぐるしているアタマなので、次第にタバコの旨さが分からなくなって来た。それでもニコチン中毒者なので、機械的に吸ってしまう。禁煙外来は2回失敗した。こんな人生もあるのかな。ふう。