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48話 墨桐ニカへの愛を込めたメッセージ。



「葛切先輩――!!」


 後ろから名前を呼ばれて、白く狭窄していた視界がクリアになる。思わず忘れていた呼吸を何度か意識して繰り返す。

 今しがた振りぬいた『颶風剣・真打』の軌跡に、『星喰い』からの破片の反撃が生じる。反撃のことを見越した体勢を取っていなかったので、舌打ちをする。

 避けなければ、と姿勢を無理やり傾けたところで、墨桐からの援護が入り、避ける必要のない攻撃を避けてしまった。余計な動きに、身体の疲れが遅れて意識に割り込んでくる。

 ……各々に余裕がなくなってきたことで連携が崩れ始めている。


 ――満身創痍、という言葉が相応しかった。


 『短距離跳躍』の後、アリシアと合流して、俺達は総力戦を挑んだ。

 俺とアリシアが全力で『星喰い』を砕きに掛かり、ハルカゼがそのための門を開き、墨桐が防御に徹する。攻撃力は二倍になったと思いきや、ハルカゼと墨桐の消耗は単純に二倍となり、ある程度俺とアリシアも防御に回らざるを得なくなった。


 確実に『星喰い』は削れてきている。

 だが、こちらの勢いを維持出来ない。

 今の大きさのままの『星喰い』が地球に衝突すれば、やはりただでは済まない。何としてでも食い止めなければならないという状況にあって、焦りで動きも緩慢になり始めている。


『……主よ』


 今度はセーナに声を掛けられ、気づく。

 いつの間にか展開していたはずの『颶風剣・真打』が力を失っていた。

 再度詠唱をして魔術を励起し、不可視の刃を展開する。


「……悪いな。かなり追い詰められてる」

『説明を貰わずとも分かる。気分転換に音楽でも流すか』

「要らん。あとさらっと機能を増やすな。そろそろお前で米が炊けそうで怖い」

『安心しろ。米に関しては櫃に入れておくと虫が沸かぬ程度だ』


 魔王を退けられる神剣が穀象虫退けて誇らしげにしてんじゃねえよ。

 益体ないただの軽口だったが少なくとも肩から力が抜けて少しだけ疲労も落ち着いた。再び集中してセーナを握り直す。


 大きく息を吸い、吐く。

 もう、小一時間は全力で動き続けているだろうか。


 一度目の『短距離跳躍』が起こってから、『短距離跳躍』は起こっていない。使われるたびに着弾への猶予は短くなっていくのだから、なるべくこのまま使わないで欲しいところだ。そんな気の利くタイプには見えないけどな、この無骨な存在……。

 耳元で息を吐くハルカゼの呼吸からも疲れが感じられるし、慣れない空中での姿勢制御を行っているアリシアからも疲労が伺える。

 だからこそ、今ここで俺が踏ん張らなければ全てが文字通り灰燼に帰す。


 ……集中しろ。

 思いだせ、地獄の日々を。

 目の前で助けられなかった人々を夢想させられ、血反吐を絞り尽くした師匠との日々を思い出せ。……思い出しただけで反吐を吐きそうだ。



「……先輩」


 嘔吐感を抑えるように左手で顔を覆うと、後ろから墨桐が声を掛けてくる。

 俺は振り返らず、『星喰い』に向き合ったまま、応えた。


「……今ちょっと忙しいから後で掛け直す」

「先輩……あたしは今貴方の脳外から直接話しかけています。……先輩、頼むから真面目に聞いて。ノっちゃうから」


 お前の芸人魂はもはや病気だよそれ。

 脳外ってことは普通に話しかけているってことだろうが。

 お前こそ真面目に答えろと言外の沈黙で答えながら、墨桐の言葉を待つ。


「……あたし。ようやく分かったよ。なんで異世界の、あたしの仲間たちが、あたしをこっちの世界に送り返したか」

「それは、今聞かないとダメな案件か、墨桐。なんなら今夜、夜景の綺麗なホテルでどうだ」

「………。あたし、ずっと、こっちに送り返された理由は『あたしが『星喰い』に勝てないと思われたから』……『勇者として不足だったから』そう思ってた。皆優しかったから、あたしにだけは責任を押し付けないように……一度世界を救ったお礼に、どうしようもない事態からは逃げさせてくれたんだって、思ってた」


 ……どうも、芸人魂を抑えこんででも話したいことらしい。

 多少都合はいい、俺だって、何の意味もないバカなことを言っていないと、今少し限界に近いものがある。

 脇腹を軽く押さえると、直視したくないようなしびれる痛みと、指先にぬるりとした感触が触れた。尖った岩弾がそこに突き刺さり、恐らく脇腹を貫通している。

 刺さったままにしているため、身体を動かすと肋の骨と擦れて激痛が走るが、抜けば失血がどんなふうになるか考えたくもない。

 少しでも痛みを紛らわせるために、軽口の一つでも叩いていた方が、気が楽だ。


「……まあ、そうだろうな。墨桐、お前は俺から見ても他人に嫌われるのが難しいタイプの人間だからな」

「でもさ、ちょっと違うんじゃないかなって……あたしのことが好きで、あたしが大切だったからだけで、あたしをこっちに送り返したんじゃ『ない』のかもって、今は思ってる……」

「新説だな、手短に聞きたいところだ」


 言いながら、再び『颶風剣』で岩肌を削り取っていく。

 反撃を自分で捌きながら、墨桐の言葉に耳を傾ける。

 なんとなく、その時点で墨桐がどんなところに話を着地させようとしているのか、悟りながら。


「先輩。あたしたちが勇者だったのと同じように、あたしが異世界に居た頃の仲間も、世界を救うために武器を取った、勇者だったんだよ。勇者って具体的な職じゃなくて、生き方だって、先輩も分かってるみたいにね……彼らは自分たちがいる世界をただ救いたかったの……」

「それと同じくらい、自分達の世界を救うために頑張ってくれた墨桐を助けたかったんだろ。それが間違ってるとは、俺は思わない」

「それも、もちろんあるとは思うんだけど……ただ、今あたしは思うんだ……彼らはどうしても、こうやって星を蹂躙していく『星喰い』っていう存在が許せなかったんだって。だから、あたしを一人逃して、次へと繋げようとしたんだって」


 剣を振りながら、聞く。

 墨桐は喋りながら、俺の攻撃を援護してくれる。




「……先輩。お願いしていいかな」

「すまん、聞こえなかった」




 その、切羽詰まった声を聞き。

 俺は、返答を濁した。その先に続く言葉を、俺はもう分かってしまっていた。


 墨桐は、こちらの世界に墨桐を送り返した奴らの気持ちが、分かったと言った。

 理解出来、そして共感してしまった。

 自分達ではどうしようもない相手に勝つために、『次』へと繋げることを。『星喰い』を確実に滅ぼす為に、先に託すことを。


 そして、そうするべきだと、自分もそうして『次』へと繋げるべきだと、そう告げようとしているんだ。


 ――俺は。

 それだけは、聞き入れることが出来ない。


「先輩。『あたし』が決めるよ……だから」


 だから、俺には罪はないと。

 ――『星喰い』から逃げるために、異世界に三度旅立つ勇者を、誰も責められはしないと。責めるべきは間違った選択を許容し、決めた自分であると。

 そう、墨桐は告げていた。


 俺は、歯を食いしばる。


「……お前一人で、背負える業でもないだろ。この星中の人間がお前を恨みながら死んでいく。その策が正しいか正しくないかの前に、俺はそんなものをお前に背負わせたまま勇者を続けていけるとは思えない」

「でも、それを背負ったのが、あたしのいた異世界の仲間達だったんだよ……だったら、あたしだけがそれを背負えないなんて、言えないよ……!」

「……落ち着け墨桐!!」


 『星喰い』を睨みつけながら叫ぶ。

 墨桐が背後でビクリと肩を揺らす。叫んだことで腹部から血が吹き出し、遥か下の町並みへと雫が降っていく。

 痛みに耐えながら、言葉を続ける。



「……切羽詰まりすぎだ、思考が極端な方向に行ってる。……ハルカゼの家で、俺がどうにかしてくるって言っただろ。不安になったなら、謝る。勇者失格だって笑ってくれていいぞ」

「でも、先輩は、あたしに出会えて良かったとも言ってたっ……!! でもここで、先輩も誰もかも『星喰い』のせいで死んじゃったら、本当に全て意味がなくなっちゃう……!!」

「――いい加減自責から離れろ墨桐ッ!!」


 大声で叫ぶ。


 墨桐の言葉は理解出来る。

 どんな気持ちと覚悟で告げているかも、分かる。

 勇者として不甲斐ない自分や、勇者であるにも関わらず生き延びた罪悪感に苛まれているのも分かる。

 世界全てに恨まれてもいいから、一つでも多く世界を救いたいと願うその覚悟だって分かる。


 でも。

 俺は、墨桐ニカにそんな言葉を言わせるために、『星喰い』に立ち向かってるわけじゃない。

 そして、墨桐の異世界での仲間だって、そんな言葉を吐かせるために、こちらの世界に墨桐を返したわけではないと、俺は信じている。



「墨桐……こうするべきだとか、こうしないといけないなんて気持ちで、剣なんて持つなよ。そんなのは二番目や三番目の理由であるべきなんだ。生かされた生命を、生かされたことの代償に使うなんてことは、辞めろよ……」

「………」

「俺は、異世界でお前と共に旅をしてきた仲間について、何一つ知らない。お前からまだそんな深い話を聞くことも出来ないくらい、無粋な奴が落ちてきたからな。でも、何も知らないその仲間が、墨桐を『世界を一つでも多く救いたい』からなんて打算だけで、お前をこっちの世界に送り返してきたなんて、俺は思えない」


 墨桐本人がどう思っていようが、これは俺の意見だ。

 俺という人間が、墨桐ニカと僅かな時間を共にした中で判断した、俺なりの答えだ。


「『次』を夢想して、明日に送り出したんじゃない……『今』を生かしたいから、今日を繋いだんだ。ただ、お前に一日でも、一秒でも長く生きていて欲しいと思ったから、こっちの世界に送り返してきたんだと、俺は思う。お前、自分では気づいてないかもしれないけど、話してて楽しいし、他人にそう思われてもおかしくないくらいには良い奴なんだよ」


 本心を伝える。


 この短い間、墨桐と付き合い、俺が思った本音だ。

 いくつかの邪推や推測を交えたところで、何度もその違和感に気付かされた。墨桐ニカが恨まれ、疎まれるという可能性に、何度も思考が頓挫した。

 俺はその直感を信じるべきだった。

 今なら胸を張って言える。


「俺はそいつらの気持ちが分かる。お前が何かを分かったような気がしているのと同じように、気だけどな」


 なあ、墨桐ニカのお仲間よ。

 名前も顔も事情も知らないけど、俺はあんたたちの事がわかるよ。

 こいつ、面白いよな。

 こいつを生かすためなら、生命だって惜しくないと思えるくらい、楽しいやつだよな。


 分かるよ。

 俺も、墨桐に惚れた一人だから。こいつと一緒に、これからも馬鹿やりたいって思ってしまった、一人だからな。

 だから感謝してるよ、名前も顔も事情も知らない誰かたち。


 あんたたちが繋ごうとした墨桐ニカの命運は、ちょっと俺が預からせて貰う。あんたたちの無念や希望まで利用させてもらうさ。


 半ば朦朧としていた意識が、クリアになっていく。

 心の何処かで覚悟していた敗北に甘えたくなる気持ちが、一瞬で消え去る。


 それに俺は、勇者だ。

 目の前で、そんな声で助けを求める誰かを、見捨てて次なんて願えない。

 いつだって今助けられるやつを助けることを続けてきたから、今でも胸を張って勇者を自称出来るんだ。今がダメだから次に願いを託すなんてことを勇者が許したら、人が抱えている問題はいつまでも解決なんてしない。


 だから、今を勝ち取るために、死ぬ気で生きるんだ。

 背中に誰かを背負い、迷わず剣を構えて。



「墨桐。……ハンバーガー食べに行くぞ」

「……あ、たしは……」



 背中を向けていて良かった。

 その声色には、明らかな涙の色が乗っていた。自分の大切な物を奪った『星喰い』を前にして、無理やり気持ちを奮い立たせて、立ち上がってきたんだ。そして再び自分の無力を見せつけられ、不安にもなっただろう。

 限界ギリギリのところで支えていた堤防が崩れたかのように、墨桐は俺の背中に向けて泣きながら言葉を零す。



「……あた、しに……死んで欲しく、ないって、皆や、先輩が思ってるのと同じくらい……あたしもっ……皆には、死んで欲しく、なかったし……先輩にも、死んで、ほしくない、んだよ……!!」



 腹部をべったりと濡らす血の跡は……墨桐にも気づかれていたのだろう。

 それは明確な死を容易く連想させる。墨桐が不安になった一助になってしまったのだとしたら、もう少し上手く隠しておくべきだった。

 ハルカゼもその声で俺の腹部の傷に気が付き、小さく声を上げる。簡易治癒で出血自体は止まっているんだが、見た目がグロテスクなのは隠しようがないよな……。

 俺は自分の慢心で受けた傷を軽く手で押さえながら、墨桐の嗚咽を聞く。



「あんな、隕石に、大事な何かを、奪われるのが、悔しいし……!! あんなのにっ、勝てないっ、自分は、もっと悔しいよ……!! あたしに、もっと、力があったら、死んでいった人たちも、世界も……守れた、かもしれない、のにっ……!!」



 分かるよ、その気持ちも。

 俺だって、救えなかった物、助けられなかった者……お前より不器用に異世界で旅をしてきたせいで、お前より多く抱えてる。

 でも、そう思う度に、少しずつ強くなれてきたんだ。今じゃ敗北を重ねる度に強くなるのが、勇者の資質だとも思っているからな。


 だから、その気持ちは大切に仕舞っていけばいい。

 俺がそれを……今だけは、次に繋げてやるから。





 ――その時。

 本当に無粋な『星喰い』が、二回目の『短距離跳躍』の詠唱を始めた。

 即座に空中に魔法陣が描かれ、半分ほどに削れた巨体が沈み込み、遥か下方にその巨体の半分が召喚されていく。


 ……正念場だ。

 このターンの間に削りきらなければ、恐らく『星喰い』はこの星を飲み込むだろう。それまでにあの傲慢の塊を削りきり、全て消滅させなければならない。

 こんなにも簡単に訪れてくれる『世界の危機』に、勇者は苦く笑う。もしも給料が出る仕事なら、この世界では食いはぐれることはないだろうな。


 俺は深呼吸を一回して、気持ちを切り替える為に墨桐に向かって言葉を放つ。



「墨桐。一つだけ、いいか」

「……何、よ、先輩」



 セーナを構え直し、柄にもない慰めが出そうになったので、俺らしく笑ってみせた。

 そうだな。

 そんな深刻なのは、俺達には相応しくない。


 俺は、大好きな墨桐の為に、墨桐に相応しい言葉にそれを変換する。



「今でも異世界の仲間を信じてるか、という問いと掛けて」


 俺が問う。


「……楽しかったアニメが終わった後の視聴者ととく」


 ……相変わらず早いなおい。




「その心は?」

「……ずっとにきまってる!!」




 俺は、笑う。

 やっぱり俺は、この墨桐ニカという相手を、どう考えても……!!

 ああ、どう考えても、何度考えても……!!



 ――こいつだけは守らなきゃなんねえよなあ!!




 俺はセーナにありったけの魔力を込める。俺の魔力に呼応して、シャーペンが眩く輝き、貪欲にそれを食らっていく。

 『颶風剣・真打』が刀身を取り戻し、荒れ狂う空間を刃にした万物を切断する刃が取り戻る。空気をかき混ぜる耳障りな音を生じさせながら、巨刃が舞い踊る。


 ぶち込んでやる。

 絶対に全部、ぶっ壊してやる。


 『星喰い』も。

 『世界の危機』も。

 墨桐が負った傷も。

 墨桐の悲しみも。

 あいつの笑顔を奪った何もかもを。


 ありったけ、全部ぶちこんで、ぶっ壊してやる……!!




 そのまま『星喰い』が『短距離跳躍』した下方に向けて姿勢を整えて跳躍した。


 落下の勢いを加えて、深部まで刃を突き刺し、内側から爆裂させてやる……!! 



 落下し、風を感じながらながら、黙ってしがみついていたハルカゼに向けて言う。


「ハルカゼ。……深くまで刃を突き刺す。反撃がかなりきついことになるから、絶対に顔出すなよ。避けきれる気がしないからな」

「……嫌です」


 嫌なのかよ。

 ここに来て仲違いかよ、しかも初めて明確な反対意見が飛んできたぞ? と首を傾げる。

 マイ・マスターはもう少し従僕に従順な主だったはずだが? 何か間違っているような気がするのは気のせいだろう。


「私も……絶対に、ニカちゃん、助けたいです、から……!!」


 ……まあ、だろうなとは思った。

 だから俺はそれならそれで覚悟が決まる。

 俺の攻撃を全力でサポートする方に覚悟したなら、俺は死んでも相手の攻撃がハルカゼに当たらないようにすればいいだけだ。

 逆に言えばその発言が出たのはハルカゼが俺の操縦の方法がわかってきたということかもしれない。そこまで深く考えているとは思わないが、もしかしたら本当の意味での主従になれてきたのかもしれない。


 そう言われて、燃えない男が、燃えない従者が、燃えない勇者が居るだろうか。

 俺は笑って答える。


「オーケー、マイマスター」

「最悪、必要になったら放り投げてもらっても、いいですから……!」


 途中下車させられたら死ぬんじゃなかったのかよ。

 まあ、そこまで覚悟が決まってるなら尚更言うことはないけどな。

 放り投げる必要どころか、居てもらわなきゃ困るという前提があるから、俺は改めて笑ってその覚悟を受け取った。



 落下速度が増していく。

 『星喰い』に対して徐々に距離が近づいていく。

 ありったけの一撃を込めてやろうと、思い切り剣を振り被る。



 ――と。

 視界に、わずかだけ違和感があった。


 その『星喰い』の岩肌に対して。

 太陽の光に照らされて、きらりと光る何かを、視界の端に捉える。


 攻撃をする前に反撃が飛んでくることもあるのかと思ったが、違う。

 それは『星喰い』が攻撃をしてくるときに淡く輝くのとは全く別物の……それよりも小さく、僅かな光だった。



 俺はそれに気づき。


 ――牙を剥いて、笑った。

 心の底から愉快で。

 今まで色々考えてきたこと全てが杞憂で。

 墨桐ニカという少女に対してざまあみろ、俺の言った通りだと言う気持ちが胸の中いっぱいに広がって。



「見ろよ――!!」



 俺は、落下をしながら大声で叫んでいた。



「心配しなくてもな、お前は、お前が思っている以上に、愛されてんだよ、墨桐ィィッーーーーー!!!! お前が異世界で生きてきたことは、何一つ無駄じゃなかったんだよッッ!!!」



 岩肌。

 『星喰い』の表面。


 上から見て、初めて気がつく場所に。





 いくつもの。


 いくつもの、剣や杖、槍が突き刺さっていた。

 ひと目で分かる。それは、聖杖『フラッズフラット』のような、神器の類であると。

 異世界で墨桐ニカが旅をして。

 墨桐ニカをこちらの世界に送り返した者たちが残した。


 最後のメッセージだった。



 ありがとう。

 そして、ごめん。

 そのメッセージが伝えてきた言葉と同じことを、俺はその持ち主達に伝える。


 残してくれたその武器を。

 墨桐ニカや、この世界を守るために、使わせてもらう。

 

 

 ――俺は剣を振りかぶり。

 ――ハルカゼが『門』を開く。


 その思いを引き継ぐように、その神器たちを『星喰い』へと思い切り叩きつけるように、『颶風剣』を叩き込んだ。

 迷いなく振りぬかれた剣によって切り刻まれながら『星喰い』の中央へと叩き込まれた神器は、そこで一気に内側に溜め込んだ魔力を解放し。




 ――『星喰い』を、中央から、食い破った。



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