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12話 世界の危機の所在と在処。

 ――その一撃に反応出来たのは、三年間の研鑽があったからとしか言えない。


 噴水のオブジェを蹴り砕きながら、人の形をした『影』は俺より近い場所にいた魔王に向けて跳躍し、その手に握った同じく『影』製の長剣を魔王に向けて袈裟斬りに斬りつけてきた。

 その間に割り込むようにして一閃をシャーペンで受けると、空中でバキンと音が鳴った。ナイフやダガーに比べても極端に短い持ち手のシャーペンで防ぐ事が出来たのは、ギリギリ異世界の頃の勘が衰えてなかったからだ。危ねぇ。マジで危ねぇ……!

 手に感じる剣での交錯による痺れを懐かしく感じながら、再び振るってきた剣撃を辛うじていなす。二度三度と叩きつけられる度に空中で黒い紫電が走る。

 影は体を押し付けるように距離を一歩縮め、力で押し切ろうという魂胆なのか、体重をかけて鍔迫り合いを挑んでくる。生憎こっちの得物には唾はないけどな。


「……ほう? 守ってくれるのか、勇者よ」

「知るか!! 勝手に身体が動いただけだ!! 人の姿してぼーっと立ってんじゃねーよ!!」


 本当に全部打算で動くなら、その攻撃は受けるべきではなかったのだろう。ただ、その攻撃を防ぐ理由を『勇者』は持ち合わせていなかったが、『勇者としての俺』ががっちり所持してしまっていた。目の前で理不尽に奪われそうな命を見過ごせたら、もう少し世界を効率よく救えたかもなと苦笑いする。

 その俺の矛盾した行動を魔王は呆れたように笑い、こちらの緊張感もどこ吹く風で緩慢な動きで鍔迫り合いをしている俺達から距離を取る。それでもそこに居られると戦いに集中出来ないので、不本意ながらその退避はありがたいと思ってしまった。



 シャーペンで相手の影剣を捻り上げ、大きく上に弾いてから距離を取る。

 不定形のモンスターかと思えば、どうにも何らかの形で習熟した剣技のスキルを感じていた。外見から予想するに、人の写身を得意とするシェイプシフターのような魔族なのだろう。


 と、距離を置いた所で右手を暖かな風が包み込む。

 横目で見ると、手に握っていたシャーペンが風を巻き起こし、腕の回りを回るようにして纏わり付く。周囲の気圧を操作し、空気を固めた刃を作り出すと、シャーペン自体が淡く光った。

 俺は八重歯を剥いて笑う。


「サービスいいじゃねーか。擬似刀身の風圧版『颶風剣』か」

『折角、文房具としての第二の人生を謳歌始めたのだ。ここで折られるは我をしても本意ではない故な』

「素直に力を貸すって言いやがれ、たまには」

『至らぬその身をこの神剣がサポートしてやろう。駆逐せよ、弱き持ち手よ』

「あっちに居た頃にもそれくらい毎回サービス良けりゃ、もう少し楽に冒険進めたのにな!!」


 ――地面を蹴って、距離を詰める。

 文字通り暴風を巻き起こしながら振られた横薙ぎの一撃が、相手の剣を半ばから断ち切る。余波として巻き起こった風が昼間のグラウンドでの粗相を思わせる勢いで街路樹を大きく揺らした。

 本来の刀身を備えた颶風剣であれば、相手の身体、引いては景色まで分断せしめる一撃は、刀身不在のシャーペンで振られたことで、相手の得物を失わせる程度にしかダメージを与えられなかった。

 俺の一撃が自身にダメージを与えうることを理解したのか『影』は後方に跳んで距離を置いた。


 断ち切ったはずの『影』の剣が再生する。不定形の特性も兼ね備えているのだろう。

 今の一撃が何のダメージも与えられていないという事実に、舌打ちをする。


『――芯も出すか……!?』

「いらねえ!!」


 完璧に余計な気遣いをしてくる神剣に叫ぶ。

 今は文房具としてのお前には期待してねえよ!! 悠長だなこいつ!!


「協力してくれるなら、もう少し刀身を重めに固めてくれ。軽すぎて剣を振るってる実感がない」

『――心得た』

「素直だな。デレ期か? 気持ち悪ぃ」

『来週から中間テストだろう。我とてその肩慣らしとして久々に力を発揮するのも良かろうと思うてな』

「書き味と切れ味をごっちゃにすんなよ!!」


 ――だが、ありがたい。

 神剣を手にしてからはずっと剣技一本でモンスターと渡り合って来たので、剣に似た重さを素直にくれる相棒に単純に感謝をする。流石に一方的に負けはしないだろうが、上手く力の加減が出来ない今の状況、そして相手がどう出るか分からないこの状況は楽観視出来るものじゃない。

 こっちの世界で本気を出せば、昼間のように周囲に多大な被害が及ぶ。ギリギリ警察沙汰にならない程度の出力で、この場を収める必要がある分、俺のほうが不利と言えば不利だ。


 生憎相手のステータスやスキルまでを視れるような魔法は修めていない。だが、俺と互角に渡り合うということはそれなりに腕に覚えがある人間を模しているのだろう。頭の上に表示されているクラスを見るが、現在交戦状態にあるので不確定状態の???という表示がされているだけだ。


 構わない。

 勝利が確定している勝負なんか、あっちじゃ一回もなかった。血反吐撒き散らしながら死に物狂いで剣を振ってきた三年間を、易々と崩せると思うなよ。


 ――『影』が懐に飛び込んでくる。

 下から掬い上げて来るような突きを剣でいなし、紙一重でかわす。

 と、いきなり重心が横に傾いで、懐に鋭い痛みが走った。身体に生じた違和感を確かめるために懐に手をやりながら相手の腹を蹴り一歩引き、手を目の前に持ってくると赤く染まっていた。


 紙一重で避けたはずだが、と相手の得物に目をやる。

 ……成る程、不定形である特性を最大限に利用してきてやがる。先ほどまで長剣程度の長さしかなかった『影』の剣は、今やバスタードソード級の大剣に姿を変えていた。元々それが己の得物であったかのように、軽々とその長物を振り回す。

 治癒魔法を掛けたいのは山々だが、集中を要するので戦闘中に詠唱を始めるともっと大きな致命傷を負う可能性もある。幸い浅く斬られただけなので戦闘自体には支障がないだろうと判断し、歯を食いしばった。


 ……交錯してみて分かる。

 やはり相手は一介のモンスターじゃない。剣技スキルはほぼ前人未到の領域にまで来ているはずの俺の剣技と互角の争いをしている時点で異常事態だ。腕力こそ負けていないが、もしかしたら剣技のみで測ればあちらの方が上手(うわて)かもしれない。

 それを『世界の危機』と呼ぶのなら、まさにその通りだ。自慢でも不遜でも何でもなく、現状に於いてこの世界にいる勇者が対抗出来ないものに、人が対処出来るわけがない。


 背後から偉そうな声が聞こえてくる。


「余、自ら応援してやろうか?」

「いらん」

「必要なら応援しながらぱんちらくらいならサービス出来るぞ」

「いらん!」

「……が、頑張ればな」

「いらんッ!! 恥じらうな魔の王ッ!!」


 戯れを後方に置き去りにして踏み込み『影』が大剣を振り下ろすのと同時に、剣から風を巻き起こす。

 空気のクッションで受け止めた剣撃の隙間を縫うようにして姿なき剣を相手の胸に差し込むと、内部から風を発生させて、その身体を四散させる。

 ある程度まで損壊を与えた上で、まだ再生するようであれば、今度は塵も残さないレベルで圧殺するか、もっと微細に切り刻むしかない。俺は相手の出方を伺うように距離を取り、腹部が丸々消失した『影』の姿を見ながら。



 ――死ぬほど嫌な予感がして、(セーナトゥーハ)を構えた。



「セーナァ!!」

『――心得たッ!!』


 空中に浮いた上半身が、振り下ろした大剣を再び担ぎあげた瞬間に、巻き起こった魔力の渦をセーナも感知していたのか、名前を呼ぶだけで眩く輝いた。掛け値なく全力で解放された勇者と神剣の魔力が一瞬で外側に励起され、暴風が吹き荒れる。


 ――上半身だけの『影』が赤く輝く大剣を振り回す。

 ――巨大な『熱』が放たれた。


 空気中の全ての物質を燃やしながら、それは巨大な炎のうねりと化して周囲を明るく照らす。

 全てを飲み込む超高温の熱流が放射線状に放たれ、周囲を蹂躙するその直前に――。



「――『颶風剣』ッ!!」



 大声で叫びながら、励起していた魔力を全力で上方向に放つ。本来、相手の体勢を崩しながら全身を切り刻み、オリハルコンすら細切れにする魔法剣技が灼熱の炎を上空へと巻き上げ、消し飛ばす。

 魔力で生み出された超常現象同士が互いに干渉を起こしながら炎と風は遥か上空で掻き消えた。

 掻き消える直前に炎が撫でていった木々や遊具が、焦げ臭い匂いを発する。中には少しだけ表面が融解しているものもあった。


 ――呼吸をするのを忘れるくらい、厳密に相手から放たれた魔力を計算していた頭が、無茶苦茶な頭痛を起こす。思考領域を魔術で拡充していなければ、脳が焼き切れていたかもしれない。明滅する視界になんとか意識を保ちながら剣を構えて『影』に相対する。


 だが『影』はそこで剣を置き、綺麗な一礼をして再び紫電を生じさせた空間の亀裂へとその身を躍らせて消えていった。

 その動作にすら、先ほど感じた嫌な予感と同じものを感じながら、俺は颶風剣を杖代わりに膝を突く。

 大きく息を吸い、吐いたところで空気を固めて作った颶風剣がいきなり消失し、顎をしたたかに打ち付けて地面へと倒れ伏す。……お前、本当にいい性格してるわ、セーナ。文房具として扱われるのは許せるが、杖として使うのは許さないとか。


 ……身体がだるい。肘を使って、仰向けに寝転ぶ。

 恐らく、こちらの体が持つスペックが、圧倒的に勇者のステータスに追い付いていないため、無理が生じているのだろう。一気に魔力を放った疲れに汗が吹き出し、息を整えるようにそのまま深呼吸を繰り返していると、視界を陰が覆う。

 視線を横に向けると、ベンチの上に立つ魔王の姿があった。

 

 ……うわ。


「……お前……わざとやってるなら今すぐ異世界で決着つけてもいいぞ……」

「……? お、おお! 馬鹿を言えっ……わざとではないっ……!」


 こっちは今寝そべっているのに、顔の近くにあるベンチの上にふんぞり返って立てば、多めに裾が余っていようが見えるものは見える。……良く分からんが紋章の痛みに地面を転げまわってだった頃の子供パンツ比べて、何なんだその戦闘力高めの装備は。そんなところまでクラスメイトにカスタマイズされたのかお前。


 沢山の桃色フリルに恥じらう魔王の姿に苛つきながら、俺は改めて呼吸を整えるように大きく息を吸い、吐いた。

 やはりどこか他人ごとであるスタンスを崩さずに、今度は威厳たっぷりにちょっと距離を置いた魔王が腕を組んで今の戦いを評した。


「辛勝と言ったところか」

「……何もしなかった奴が評価してんじゃねえ」

「手練であったことは見ていて分かる。賛辞として受け取れ『颶風のセト』よ。あれがハルカゼの言う『世界の危機』であるのか?」

「……さあ、そこんところは、俺も良く分からん」


 分からんが、一つだけ朧げに浮かんできている事実はある。

 そしてその事実のために、俺は必要以上の疲労を強いられていた。


 先ほどまで剣を交えていた相手が使う、大剣、そして炎。剣を交えた時の熟練の腕とその太刀運び。


 ――俺はその全てに覚えがあった。

 それも、身に覚えがあったのだ。


 あれは間違いなく、神剣使いであるアリシア・ファイルカスタムの剣技だった。

 彼女が持つ赫剣『クァグラム』で励起された炎熱による『紅蓮剣』に他ならなかった。実際、その習得にも携わった俺が言うのだから絶対に間違いはない。


 ――で、あれば、あの『影』は一体何者なのか。


 アリシア本人でないことは確かだ。俺のパーティに不定形に分類される者はいなかったし『影』の技にしても本物には及んでいなかった。『クァグラム』を使用して広範囲に『紅蓮剣』を放てば、発動と同時にこの公園ぐらいは簡単に蒸発する恐ろしい威力を秘めているはずなので、一瞬本物の可能性を考えてさっきは嫌な汗を掻いた。

 だからあれは、アリシア本人ではないがアリシアのステータスを持った何かであるという曖昧な答えが導かれる。


「……凄い嫌な予感がしてきたぞ、魔王」

「言ってみるがよい、勇者よ」

「……お前が、こっちの世界に召喚されてきたとき、最初の時点で俺と一緒の場所に召喚されなかった理由って何だ」

「さあな、皆目見当もつかん」


 それもまあ、事実なのだろう。

 魔王は魔王で、己がハルカゼによって召喚されたことを知らなかったし、ハルカゼも積極的に魔王を探そうとはしていなかった。ハルカゼが召喚しようとしたのはあくまで勇者であって、魔王ではないはずだ。

 目的が俺という勇者の召喚であったにも関わらず、魔王という存在まで不完全ではあるが召喚してしまったのはもしかしたら本意ではなかったのかもしれない。そもそも、ハルカゼが魔王を召喚した理由について、俺はまだハルカゼに何も聞いていないということにも気がつく。

 失念していた。

 そういえば、あいつは勇者を必要としていたんであって、魔王を必要としているなんて一度も言っていなかったのに。


 その上で、何故勇者の召喚に魔王が相乗り出来たのか。

 そして、異世界で複数の魔術師が大掛かりな準備を行って初めて成功する魔術を、高位魔術師ハイ・ウィザードとはいえ桜倉ハルカゼが単独で成し得た理由。


「……多分だが」


 そう、それはまだ俺が立てた仮説に過ぎないけれど。

 もしそうだとしたら、その責任は最悪、俺にこそあるのかもしれない。


「この世界と異世界の境界が、緩くなっている、とかか……?」

「……それが、ハルカゼが余や貴様を単独の力で召喚せしめた理由、ということか」

「だから……必要のない者までこちらの世界に呼ばれ始めてる……」

「……それはすなわち、ステータスを伴わない魔王であったり――」

「――ステータスのみで実体を持たず『影』と成り果てた勇者パーティの一人であったり、か」


 だとしたら。

 恐らく、ハルカゼの言う『世界の危機』というのは。


 この世界と異世界の境界が、曖昧になっているということそのものなのかもしれない。

 もっと言えば、ハルカゼは俺の前に一人の勇者を召喚したと言っていた。だとすれば、曖昧になっているのは俺が召喚された異世界との境界だけでなく、この世界と他の世界との境界なのだろうか。


「その説だが……あながち、間違ってはいないだろう」

「……やけに断定的だな」


 俺の仮説に、魔王はしたり顔で答える。俺が解せないという顔で魔王の顔を見ると、いつもの不敵な笑みを張り付かせたまま、指で制服の襟を引き、胸元を覗かせる。

 そこには……家の鍵らしき物と、大きな刺し傷があった。真新しいがすでに塞がっている。傷口周辺の服が目立たなかったが魔王自身の血で黒く染まっていることに気がつく。

 

「……夜間の出歩きを咎める警官が、合鍵を持たせぬ訳があるまい。傷が癒えるまで立ち止まっていたに過ぎん」

「……何だ、その傷」

「貴様だけが異世界からの使者に歓迎を受ける特別な存在であるとでも思ったか? 貴様が立ち寄る前、余はここで一戦を交えていた。この身であるが故に逃げ惑っていただけであったがな」


 成る程、本当に俺達の会話を出歯亀していた訳じゃなかったのか。

 それを報告しに行こうとしたところで、俺達の会話に興味が惹かれ、後回しにしていたと。

 魔王は不敵に笑いながら顎に手をやる。袖が余っているので格好がつかないが。


「あれは――余の四天王の一人であったな。名も覚えておらぬが、奴は最初に貴様に討たれた者であっただろう。まあ奴は四天王の中でも最弱の恥さらしであったから、無理もあるまい」


 ああ、やっぱりそのやり取り、そっちサイドでやったんだ。

 しかもその最悪の恥さらしの『影』にしっかりやられてるお前は何さらしなんだよ。


「つまりはあの『影』は、召喚という形を取らずにこちらに能力だけ飛んできた、形を持たぬ存在のようなものなのだろうな。既にあちらでは影も形もない者の『影』まで呼び寄せるとは、甚だ荒唐無稽であるが」

「成る程な……言ってしまえば、ステータスだけ呼ばれたバグみたいなもんってことか。だとしたら、アリシアは『影』のレベルで手合わせが終わったら一礼するように躾けられてんのか」

「ああ、あの『影』の技、どこかで見たと思えば、先の対戦時に貴様の回りに懐いておった犬ころか」

「やめろよ。犬って言ったら俺のパーティメンバーみんな犬みたいなもんだったんだから」


 まあそれぞれ忠犬・狂犬・猟犬の違いはあるが。しかも俺をしてもこっちの世界でハルカゼにペット扱いだもんな。四人全員犬って何だよ。

 異世界は犬によって救われかけました。なんだこのラノベタイトルみたいな。


 俺はふと、疑問に思ったことを尋ねる。


「そういえば、じゃあ、お前なんで鍵がないから家に帰れないなんて言ったんだよ。傷を癒やすためにここにいたんだろ」

「フン、あの時既に余には空中で紫電反応が見えていた故、再びあの『影』がまみえることを予見しておったからな。貴様が居るほうが何かと都合が良いと思うただけだ」

「守ってもらう気バリバリじゃねーか」

「苦労。良く働いた下々に褒美を取らそうぞ。ちちちちゅーでいいか」

「どもるくらい言い慣れないなら無理すんなよ!!」


 ったく、と、相変わらず乙女心側に引っ張られつつある魔王を放っておいて、カバンを拾い上げる。

 今度は砂に塗れて、熱で焼かれてやがる。今日一日だけでどんだけ汚れてんだこのカバン。

 そういえば腹も切られてたんだったな。俺の身体はどうでもいいが、制服を縫わないといけないのが面倒臭い。服も治癒魔法で治ればいいのに。



「――なあ、勇者よ」


 背後から魔王に呼ばれて振り返る。

 もう俺は帰るぞ、と嫌な顔をすると、魔王はその言葉を口にした。


「これが『この世界の危機』であるとして――」


 考えないように考えないようにしていた問題を、簡単に、そして平気で。


「――さてこれは。『誰が』招いた危機であるのだろうな」



 そんなもの。

 答えられるはずもない。


 誰であると言っても正しく、誰であると言っても正しくない問いかけに相応しい答えは、それこそ観測者問題だ。

 原因を何に求めるかによって誰のせいかは変わるし、それを裏付ける証拠はどこにもない。

 答えを定めたところで誰かが不幸になる問いを空中に弄んだまま、俺はただ口を噤んで頭を掻いた。



 ……まあ、どうにかするしかねーだろ。誰のせいだったとしても。

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