死神への贈り物 1
「……シャルル。すまなかったな」
カルリオン邸の広間で、アルドンサはすまなそうに私にそう言った。
「いや、いいんだ。別に誰も悪くない。もちろん、アルドンサもだ」
「……ニコラスは断罪人を知っていたんだな……ソフィア。お前も知っていたか?」
と、アルドンサは、隣に控えるメイドに尋ねる。
「私は、生まれたときからこの御家にお仕えしております。ですから、世俗に疎いため、断罪人というのがどういった人たちなのか存じ上げませんね」
ソフィアは不思議そうにそう言った。
むしろ、断罪人というのは高貴な身分であればあるほど、知らない存在なのかもしれない。
もっとも、そういった人種が知っていたならばあんな職業は成立しなかったかもしれないが。
「そうか……マリアンナ。怒ってなかったか?」
「大丈夫だ。アイツはもうああいうことに慣れている」
私がそういうとアルドンサは悲しそうに俯く。
本来ならば自分が化物呼ばわりされることなんかになれるべきじゃない。私だってそう思う。
だが、悲しいかな、先ほどのニコラスの反応こそが、現在ブランダ王国における断罪人に対する反応としてはもっとも自然なのだ。
無論、それで私が納得しているわけもないが。
「……あー、アルドンサ。そこで、ちょっと相談があるのだが」
「相談? なんだ?」
「その……少し買い物をしたいんだ」
「買い物? 何か必要なのか?」
「ああ……ちょっと、アクセサリーが必要なんだ」
アルドンサは私の言ったことがいまいち理解できなかったようだった。
よって私は先ほど、マリアンナが言ったシスターと断罪人の違いについて説明し、私が考えたそれに関する対策を話した。
アルドンサは最初は快く話を聞いていてくれたが、なぜか最後のほうになると顔をしかめて私を睨みつけ始める。
「……アルドンサ? どうした?」
私は不安になったので、アルドンサに訊ねた。
アルドンサは不機嫌そうな顔で私を見る。
「……シャルル。お前のやりたいことはわかった。そして、それは悪い案ではないと思う」
「そ、そうか。分かってくれるのか」
「だが、私はお前と一緒に買い物など行かん」
……なんだって?
アルドンサはきっぱりとそう言ったのだ。私は耳を疑った。
「え? い、行ってくれないのか?」
「ああ。ソフィア。一緒に行ってやれ」
「え? 私、ですか?」
面食らったのはソフィアである。
「ああ。そうだ。私は部屋に戻るからな」
「お、おい。アルドンサ。待ってくれ。君の意見も聞きたいんだが――」
すると、アルドンサは振り返ってキッと私を睨みつけた。
「お前の好きなようにしたらいいだろう! この鈍感め!」
そう言ってアルドンサは立ち上がると、そのまま乱暴に扉を閉めて出て行ってしまった。
残された私とメイド長は顔を見合わせる。
「……なぜアルドンサは怒っているんだ?」
私がそう呟くと、ソフィアは、聞こえよがしに大きく溜息をついた。
「まったく……こんな鈍感な人が将来の私の仕えるご主人様になるんだと思うと、心配ですね」
「え? 鈍感? どういうことだ? ソフィア?」
「……分かりました。お買い物にお付き合いします。お話はそこでいたしましょう」
ソフィアは呆れた表情で私を見る。
鈍感……か。
そりゃあ、カンがいい方ではないのはわかるが、そこまで言わなくてもいいだろうに……




