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慈悲深き女神

「あ、シャルル!」


 と、王の間を出た廊下の先にアルドンサが待っていた。


「あ……シスターモニカも一緒だったのか」

「あららぁ~、アルドンサさん。ごめんなさいねぇ~。なんだか私、お邪魔虫みたいでぇ~」


 アルドンサは露骨に嫌そうな顔をして私を見る。

 かといって、そんな顔で見られても私だってどうしようもなかったのだ。


「では、シスターモニカ。私達はこれで」

「あらら~? アルドンサさん、待ってくださいよぉ~。これから私はシャルルさんを、大聖堂にお連れするって、さっき言ったんですぅ~」

「大聖堂に? 本当か?」

「あ、ああ……すまない」


 私には謝ることしか出来なかった。

 アルドンサは大きく溜息をつくと、キッとモニカのほうを見る。


「分かりました。私も行きます」

「あららぁ~? いいんですよぉ~、アルドンサはいらっしゃらなくてもぉ~」

「いえ。私にもたまにはジンゼの神に祈りを捧げさせてください」

「うふふぅ~。良い心がけですねぇ~。わかりましたぁ~。そういうことなら、ご一緒しましょう~」


 そういってモニカは私達の横を通り抜け、廊下の先へと歩いていった。


「……アルドンサ。すまん」


 モニカが通り過ぎてから、私はアルドンサにもう一度頭を下げた。


「いや。いいんだ。私としてもアイツについてもっと知りたいからな」

「アイツ……あのシスターのことか?」

「ああ、そうだ。あのどうにもインチキ臭い聖女様のことだよ」

「……アルドンサ。まさか、アイツ、断罪人……」


 すると、アルドンサは目を丸くして私を見た後、小さく溜息をつく。


「シャルル……お前の気持ちはわかる。だが、残念ながらアイツはれっきとしたジンゼ教会のシスターだ。しかも『慈悲深き女神』と呼ばれるほどの人格者だよ」

「慈悲深き……女神?」

「ああ。しかし、どうにも私にはそれが信じられん……」

「アルドンサ。モニカは、一体どういうヤツなんだ?」

「……6ヶ月前、前の国王の急逝により、先ほどのお子様国王が選出された。さきの国王にはアイツしか後継者しかいなかったからな」

「6ヶ月前? そんな最近だったのか?」

「ああ。そうだ。知らなかったのか?」

「あ、ああ……」


 6ヶ月前といえば、ちょうど私が家を追い出され、マリアンナと会ったときのことだ。

 道理で自分が住んでいる国の支配者が変わったことも知らないわけである。


「そこで出てきたのが、モニカだ。最初はジンゼ教会から選出されたブランダ国王の相談役、ということだったらしいんだが、今では国の政策にもアイツが口を出しているらしい。あのお子様には国の政策なんてわからないからな。モニカが全て神の御意思だとかなんとか言って国王を唆しているそうだ」

「え? そ、そうなのか?」

「見た目では聖女そのものを気取っているが、中々どうして抜け目ないヤツだ。おかげで国の政策も滅茶苦茶。国民が貧窮しだしたのもそのせいで、潤っているのはジンゼ教会だけとかいう話も聞く」


 アルドンサの言っていることだったが、どうにも信じられなかった。

 いや、しかし、これまでの旅で信じられないことには何度もめぐり合ってきた。

 それに、人が見た目通りではないということも充分にわかってきたつもりである。


「お二人さん? どうかしましたかぁ~?」


 と、廊下の向こうからモニカが私とアルドンサを呼んできた。


「ああ。すまない。今行く」


 アルドンサはそう答え、今一度私の方に顔を向ける。


「だから、シャルル。くれぐれも用心しろよ」

「あ、ああ。わかった」


 私とアルドンサはモニカの方に近付いていった。


「うふふ~。どうしましたぁ~? 二人で内緒のお話ですかぁ~?」

「違います。さて、大聖堂に向かいましょうか」

「そうですかぁ~。まぁ、いいんですよぉ~。何を話していても、ジンゼの神はすべて、お見通しですからぁ~」


 そういって垂れ目がちな瞳を細めて笑うモニカ。

 しかし、その瞳にはどこかただ単に穏やかなシスターというだけではない、何か底知れぬものが潜んでいるようなそんな不安の色が宿っているのを私は認めることができた。

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