狼と死神 2
それからまたしばらく歩くと、木で作られた立て看板のようなものが見えた。
「街か?」
私は重荷による疲れなど吹き飛んでしまったかのように、駆け寄ってその看板を見上げる。
看板には「この先、スパニ村」とだけ書いてあった。
「スパニ……村?」
「さぁ、早く歩け。スパニ村まではまだ少しあるぞ」
その時の私は、そもそも「村」という存在自体知らなかったから、一体これからどこへ向かうのかわからなかった。
しかも、その頃には段々と日も暮れかかってきていた。
マリアンナの黒い修道服が夜の闇に溶け込んでいってしまいそうに見えて、私を一層不安にさせる。
「ここだ」
それからさらに歩くと、周りの情景が見えていなかったせいか、いつのまにか目の前には「村」があった。
「村」というものを初めて見た私にしてみれば、そこは、酷く歪な存在であった。
何軒もの家畜小屋のような小さな家が立ち並び、そこに人々が出入りしているのだ。
コイツらは家畜小屋で生活しているのかと、その時の私は思ったものである。
「行くぞ」
「え? おい、待ってくれ」
マリアンナはそのまま村の中央を横切って突き進んだ。
すると、村の人々がそんなマリアンナを見つめている。
最初は、大きな荷物を持っている私を見ているのかと思ったが、どうやらそうではないようだった。
確実にその視線は漆黒の修道服を纏った、白髪の少女に注がれていた。
「おい」
マリアンナが、道行く一人の男性に声をかけた。
男性は気だるそうな顔でこちらを見たが、マリアンナの姿を目にすると、急に慌てたように作り笑いを浮かべた。
「あ……断罪人様でしたか」
「村長の家はあれか?」
マリアンナは周りの家よりも一回り大きい家を指差す。
「ええ。ここは村長の家でございます」
相変わらず作り笑いを浮かべながらマリアンナに頭を下げる男性。
「そうか。ありがとう」
マリアンナは、そのまま扉を開け、中へ入った。
私もその後に続く。
一瞬、先程の男性の表情が目に入った。
男性は先程までの笑顔はどこへやら、まるで汚い物を見るかのような目で、マリアンナを睨んでいた。
私にはどうも、そのことが気になってしまったのであった。