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カルリオン家の人々 1

「ここが、我が家だ」


 そういってアルドンサはセルバンテスを止め、その背中から降りた。

 目の前にはかつての我が家フロベール伯爵の屋敷よりも、さらに豪壮な屋敷が聳えていた。

 すでに此処に来るまでに貴族の居住区とやらに突入した辺りから、私は度肝を抜かれていた。

 これが都市部の貴族の住処なのだと。

 辺境の地で貴族をやっていたものとは偉い違いなのだと思い知らされてしまった。


「すごいな……入って、大丈夫なのか?」

「何? シャルル。ここは私の家だぞ。何を躊躇う必要がある」

「あ、あはは……そうだな」

「よし。では行くぞ」


 そういってアルドンサは屋敷の方へ向かって行った。

 屋敷の前には鎧に身を包んだ重装備の衛兵が二人、門を守っていた。


「ニコラス。サンチョ。今帰ったぞ」


 すると、重装備の衛兵たちは目を丸くしてアルドンサのことを見た。


「あ……お、お嬢様!? ホントに、お嬢様ですか!?」

「そうだ。私の顔、見忘れたのか?」

「い、いえ! とんでもありません! これは大変だ……お嬢様が帰ってきた!」


 すると、片方の衛兵はそのまま門を開けて屋敷の方へ走って行ってしまった。


「まったく……相変らずサンチョは慌しいヤツだ」


 アルドンサは溜息をついた。

 そして、残った衛兵が不思議そうな顔でアルドンサを見る。


「しかし、お嬢様、いつお帰りに?」

「今日だ。だから、父上も私が帰ってきたことは知らないはずだ」

「そ、そうですか……で、そのお付の者は?」


 と、ここでようやく衛兵は私に興味を示したようだった。

 すると、アルドンサは得意満面の笑みを浮かべて衛兵を見る。


「ふっ……はっはっは! 聞いて驚くなよ! ニコラス! コイツこそ、私の未来の夫、将来を誓い合った者だ!」


 ニコラスと呼ばれた衛兵はポカーンと呆けていた。

 私は私で、既視感のある光景に、いささかむず痒い思いをしていた。


「将来、でございますか?」


 と、そこへ低く渋い声が聞こえてきた。

 アルドンサと私は声のした方に顔を向ける。

 そこにいたのは、ピッチリとした黒い服を着た初老の男性だった。

 見るからに規律を重んじるといった風体の人物で、かけている眼鏡の奥の瞳が、私とアルドンサを睨んでいた。


「おお。サンソン。まだ生きていたのか」

「お嬢様。せっかく再会した執事にそのようなお言葉、いささか酷すぎるのではございませんか?」

「ああ、そうだな。しかし、どうせ私が何を言おうが動じないのが、カルリオン家の執事、サンソン・バルバートなんだろう?」

「はい。お嬢様には小さい頃から手間をかけさせられましたから、これくらいの再会の挨拶ではワタクシは動揺いたしません」


 アルドンサはその返答を聞いて、ヤレヤレという風に苦笑いをした。

 一方の男性の方はしかめ面でアルドンサを見ていた。


「で、そこの者は何者なのです?」


 と、サンソンと呼ばれた男性は、私の方に顔を向けてきた。


「だから、言っただろう? サンソン。コイツは、私の将来の旦那だ」

「つまり、このカルリオン家の跡取り、ということでしょうか?」

「ああ。そうだ」


 きっぱりとそういうアルドンサに対し、私は驚いてしまった。

 跡取りだって?

 そんな話今まで一度も出てこなかったじゃないか。

 そんな私の気持ちも知らず、サンソンは私のことを見定めるように眺めていた。

 そして、フンッと鼻を鳴らすと、私とアルドンサに背を向ける。


「お嬢様。とにかくお屋敷の中にお入り下さい。今回の家出のこと、旦那様もなぜこのようなことをされたのか悩んでおります」

「ああ……わかった。シャルル。行くぞ。ニコラス。セルバンテスを馬小屋に連れて行ってくれ」


 そういってセルバンテスを先ほどの衛兵に引渡し、私の隣にアルドンサは戻ってきた。


「……どういうことなんだ? アルドンサ」


 私が訪ねるとアルドンサはばつが悪そうに顔を反らした。


「……すまん。とにかく今は、私の将来の旦那になるということで振舞ってくれ」

「はぁ……まぁ、君の頼みだから仕方ないが、話は後で聞かせてもらうぞ」


 家出といい、跡取りといい……アルドンサはどうやら私に話していないことがあったようだ。

 もっとも、私も未だに自身の正体について打ち明けられていないのだから、アルドンサを責める資格もないのだけれど。

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