王都クローネ
ついにたどり着いた王都クローネ。シャルルは初めて眼にする王都の豪華さに、思わず目を奪われてしまうのであった。
クローネが見えてきた辺りで、不意に馬車は止まった。
そして、扉が開く。どうやらここで降りろという意味らしかった。
私とアルドンサが馬車から降りると、そのまま不気味な装飾の馬車は私とアルドンサを残して走り去ってしまった。
「……さてと」
私はもう一度クローネのある方向に顔を向ける。
今一度見てみると恐ろしく巨大な都市だった。既に街へと続く道には何台もの馬車が行き交っている。
「これが王都、か」
「ああ。そうだ。まぁ、初めてこれを見るとなると驚くというのも仕方ないがな。ここでこうしていても仕方ない。とにかく行くぞ」
アルドンサはそう言って歩き出した。私もその後を追う。
クローネへと続く道に出て、周りの道行く人々と同じように私とアルドンサはクローネの方向に向かう。
しばらくすると入口のような場所が見えてきた。
「あそこから入るのか?」
「ああ。そうだ。門番なんていないぞ? クローネは自由都市だからな」
「自由都市? なんだそれは?」
「なんだ。知らないのか? 商売人や旅人を制限なく受け入れるってことだ。無論、街の中で商売なんかをする場合は国からの許可が必要となってくるがな」
なるほど。商業都市のより規模の大きいもの、と考えて良いのだろう。
私とアルドンサはそのまま入口の前までやってきた。
街の入口には大きなアーチ型の装飾品が設置してあり、その下を通って中に入るようだった。
「……なんだか緊張するな」
「はっはっは! 大丈夫だ。ブランダ王国内一治安の良い街だ。中に入ったからって何かされるってことはないさ」
アルドンサの言葉にそれもそうかと納得し、私とアルドンサはアーチを潜って街の中へと入っていった。
街の中は、まさに荘厳の一言に尽きるものであった。
目の前には、大きな石造りの道が広がっており、その道を中心として様々な店が軒を連ねていた。
「ここが、クローネ中央通りだ。まっすぐここを進めばブランダ城に着く。そこが王の住む場所だ」
アルドンサの言う通り、大きな通りの先には、これまた巨大な城のシルエットが見えた。
あの大きな城こそ、このブランダ王国の全てを治める王が住む城なのだ……そう考えるとなんだか不思議な気がしてきた。
なぜなら、あの城にいるたった一人の男によってこの国は治められているというのだ。これまで旅をしてきた私にとっては、それはあまりにも滑稽な話に思えて仕方なかったのである。
「さて。シャルル。さっそくだが、私の家に行くぞ」
「え? い、いきなりか?」
「ああ。こうして帰ってきたのだ。一刻も早く父上に顔を見せなければいけない。セルバンテスも家が恋しいだろうしな」
アルドンサは名馬の毛並みを愛惜しそうに撫でた。
主人の愛撫にセルバンテスも同意しているようだった。
どうやら、覚悟を決めなければいけないらしい。
「そ、そうだな……それに、君の父上、カルリオン公爵は、王族にも顔が利く人だったよな?」
「ああ。まぁ、公爵だからな。父が王に謁見を頼めば、会えないこともないだろう」
「そういうことならば革命都市の話、すぐにでも君の父上に話すべきなんじゃないか」
アルドンサも頷いた。
確かにカルリオン公爵に会うのは怖いが、それ以上に、この国は今危機に立たされているのだ。
そのことを王に知らせなければならない。
「よし。シャルル。そういうことならば、さっさと行くぞ」
「あ、ああ。で、君の家っていうのはどこなんだ?」
「貴族の居住区は街の南側だ。私について来い」
アルドンサはセルバンテスに跨ると、ゆっくりと進みだした。
私は歩き出したものの、やはり、左右に広がる豪華絢爛な街並みに目を奪われながら、なるべくゆっくりと歩を進めたのであった。




