革命都市 10
「……本当に、ここで別れるのか?」
未だに暗い夜の帳の中で、セルバンテスを連れて来たアルドンサが、不安げに訊ねた。
「そうだ。この馬車に乗って行けばいいんだ。問題ないだろう?」
マリアンナは変わらない表情のままそう言った。
私とアルドンサは、マリアンナによって、街の入口まで連れてこられていた。
そこには、いつぞやの不気味な馬車が待っていた。
マリアンナは、私とアルドンサにそれに乗ってそのまま王都に行けというのである。
「だって……シャルル」
無論、アルドンサは納得がいかなかったのだろう。
だが、私は既に了承していた。
これは別れではないのだ。
いずれ、必ずマリアンナとは再会する。
本当ならば、私にはマリアンナの側にいる義務がある。
しかし、ここは一旦離れなければならない。
それは必要なことなのだと、私は理解していた。
「……アルドンサ。マリアンナの言うとおりにしよう」
「え……お、お前……」
「……本当にいいんだよな? マリアンナ」
私は確かめるように、マリアンナに訊ねた。
マリアンナの瞳は、相も変わらず、ただ、蒼く美しい。
「ああ。いいんだ」
「……私は、お前の所有物だ。だから、絶対に所有物の管理に責任を持てよ」
マリアンナは何も言わずに私達に背を向けた。
いや、そうではない。
ほんの一瞬だったが、私にはマリアンナが笑ったように見えた。
いつもの不自然な笑みではない、自然体の笑みだった。
マリアンナが背を向けた瞬間、馬車の扉が閉まり、そのまま大きく揺れ、走り出す感覚があった。
ガラス張りの窓から見えるのは、夜の暗い闇と馬車に併走するアルドンサの愛馬セルバンテスだけである。
後方には窓が付いていないため、私は、離れて行く革命都市を見ることが出来なかった。
だが、あの異常な都市から離れて行くのだという感覚だけはあった。
「……本当に、よかったのか?」
アルドンサが心配そうな顔で訊ねてきた。
「さぁな。私にはわからないよ」
「……マリアンナは、どうして急に私達を追い出すようなことを……」
「追い出したんじゃないな、あれは。アイツとは付き合いも長くなったからわかるんだが、マリアンナは大事なことを話さないんだ。基本面倒くさがりだからな。もしかすると、何か重大な理由があったのかもしれないが、私達にはわからずじまいさ」
「……それでいいのか? シャルル。いつものお前なら――」
「納得しないだろうな。だが、マリアンナと二人で話していて、ふと分かったんだよ。私は不安だったんだな。マリアンナが私を完全に見放すんじゃないか、って」
「……マリアンナは、お前を見放さないのか?」
「ああ。私はどこまで行っても、あいつの所有物だそうだ」
私は苦々しくアルドンサに微笑みかけた。
アルドンサもキョトンとした顔を見せた後に、困ったような笑顔を向ける。
「まったく……お前はマリアンナの所有物でいたいのか。どうしようもないな」
「ああ。でも、私にはそうである必要がある……いや、責任があるんだ。マリアンナに人間として生きてもらいたいからな」
「……そうか。それならば、自分より年下の少女に虐げられたいただの変態、というわけではないのだな」
「なっ……! アルドンサ……君ねぇ……」
「はっはっは! 冗談だ。とにかく、今は王都に向かうのだな」
私はゆっくりと頷いた。
私達の旅は一つの区切りを迎えようとしていた。
ついに、ブランダ王国の心臓部、王都クローネに辿り付くのだ。




