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革命都市 8

 修道院から出て、私とエリスは二人きりで歩いていた。

 と、エリスがいきなり私の前で足を止める。


「どうした? エリス?」

「シャルル様。シスタークリスタのこと、どう思いましたか?」

「え……ど、どう、って……」

「狂っている。そう思われたのではないですか?」


 エリスは振り返った。

 私の心を見透かしているかのような目でエリスは私を見ていた。

 私は口篭ってしまう。


「……それは……その……」

「正直に仰ってください。別に怒りませんわ」

「……ああ。そうだ。思ってしまった。狂っているのではないかとね」


 重い口を動かして、私はそう伝えた。

 エリスは確かに怒っている風ではなくいつものとおりに優しげな微笑を湛えて私を見ていた。


「そうですか……でも、あれが断罪人の真の姿なのですわ」

「そんな……エリスは、クリスタとは全然違うぞ」

「ふふっ。そう言って頂けるとありがたいですわね。ですが、そういう意味ではありません。正確にいえば、断罪人の本性とはああいうもの、ということですわね」

「本性……?」

「ええ。ただひたすらに断罪を求め、それを執行する。それこそが、ワタクシ達のあるべき姿なのです。ですから、多少狂っていたとしてもクリスタは間違っていないのです。断罪人のあるべき姿でいようとしているからこそ、クリスタは断罪人の中でもっとも強いのですわ」

「アイツも、ジェラルドがあんな風にしてしまったわけか……」

「ええ。ですが、クリスタは最初から壊れていたのかもしれませんわね」

「最初から? どういうことだ?」


 すると私を見て少し戸惑ったような顔してから、エリスは先を続ける。


「ジェラルド様も驚いていましたわ。断罪人の製造過程でたった一人生き残った少女には」

「たった一人……それはすごいことなのか?」

「ええ。大抵は、2、3人は残りますわ。ワタクシとマリアンナのように協力するからです。ですが、クリスタはたった一人で生き残った。他の全員は殺して、一人だけで生き残ったのですわ」


 エリスの顔から微笑が消える。

 私もその話を聞いて動けなくなってしまった。

 クリスタの滲み出る狂気の正体がなんとなくわかって気がした。


「シャルル様。クリスタを見ても、断罪人は人間になれると思っていますか?」

「……私が、思っていないと思うのか?」

「そうは言っておりませんわ。聞きたいだけです。マリアンナと旅をしたという稀有な経験をお持ちの方に」


 私は少し間を置いた。

 そして、しっかりとエリスの瞳を見る。


「思っているさ。今でもな」

「……ふふっ。そうですか」

「ああ……いや。すまない。言い方が少し違うな。少なくともマリアンナ……そして、エリス。君のことは、人間だと思っているよ」


 エリスは細い目を丸くさせて私を見る。

 そして、それからぷっ、と吹き出してしまった。


「なっ……す、少しキザすぎたか?」

「ふふっ。いえ。本当に、シャルル様は変わった方だな、と」

「あ、あはは……そうだな」

「ええ……そして、この上なく魅力的な方ですわ」


 そう言って私を見るエリスは、酷く妖艶な表情だったので、気まずくなった私は、咳払いをして顔を反らした。


「……ふぅ。そうですか。今の返答でわかりましたわ。シャルル様。貴方様は確かに、初めて会ったときよりも持ち物が増えたかもしれません。ですが、貴方様自身は何も変わっていないのですわね」

「ああ。私は相変らず私のままだよ」

「そうですか……よかったですわ。マリアンナをちゃんと呼び出しておいて」

「え?」


 エリスはそういうと私の右を指差した。


「あ……マリアンナ」


 見ると、革命都市の宿屋の前で、マリアンナが相変らずの仏頂面で立っていたのだ。

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