革命都市 6
夜の革命都市は完全に静まり返っていた。
まるで灯火管制が敷かれているかのように、建物にも灯りが見えない。
そして、外出禁止といわんばかりに誰も外にいない。
今も道を歩いているのは、私とエリスだけであった。
「ふふっ。こうしてシャルル様とまた二人になれるなんて、思いもしていませんでしたわ」
「え? あ、ああ……断罪教会以来だからな。エリスは、あの後どうしたんだ?」
「ワタクシですか? そうですね。しばらくは断罪人として依頼を受けていたのですけれど、その間にこの街の噂を聞いたものですから、興味を持ってやってきたのですわ。そうしたら、マリアンナまでこの街にやってきて……ふふっ。奇妙な因果ですわね」
「ははっ。そうかもな……興味を持ってきたってことは、エリスも革命に参加するのか?」
「革命に、ですか? それもいいかもしれませんわね。ワタクシ達断罪人は人殺しの武器ですもの。戦争に役に立つことこそが本来の役割なのですから」
私は思わず立ち止まってしまった。
「どうしました? シャルル様?」
「……エリス。君、わかっているのか?」
「何を、ですか?」
「ジェラルドは死んだんだぞ? それなのに……もう断罪人である必要はないのではないか?」
すると、エリスはフッと笑った。
「シャルル様。ワタクシはあの時、確かにシャルル様に感謝いたしましたわ。ジェラルド様が死んだことで、ワタクシ達を縛っていた何かが壊れた、と。ですが、同時に、ワタクシ達が断罪人であることに変わりはないとも申し上げたはずです」
「それは……そうだったが……」
「シャルル様は納得いかないかもしれませんが、、それが事実なのです。そして、この街こそが、ワタクシ達断罪人をもっとも必要としている場所なのですわよ」
何も言い返すことができなかった。
私はふと、リリアーヌのことを思い出した。
ジェラルドが死んだにも関わらず断罪人という枷から逃れられなかった断罪人の少女……
私は、ジェラルドの一件から、断罪人は人間であることを証明したいと願った。
それなのに、私の目の前断罪人の少女はそんなことは無理だとはっきりと述べた。
この街そのものが、断罪人を武器として扱うことを示している。
そして、その街に私と共に旅をしてきたマリアンナでさえやってきてしまった。
私は結局何もできていないではないか……
「シャルル様? 行きますわよ」
「え? あ、ああ……」
落胆していると、エリスが私に先を急がせた。
そのままエリスの後を追って付いたのは、昼にやってきた修道院だった。
「マリアンナは、ここにいるのか?」
「ええ。さぁ。入りましょうか」
そういうとエリスは、扉の前にいる門番に近寄って行く。
門番は何も言わずに扉を開けた。エリックとは偉い違いである。
「さぁ。行きましょう」
扉を抜け、建物の中に入り、またしばらくエリスの背中を見ながら歩く。
「シャルル様。一つ、よろしいでしょうか?」
「え? ああ。なんだ?」
「シャルル様は、あのアルドンサという女性と恋仲なのですか?」
「え? は、はぁ? な、何を言い出すんだ? エリス!」
思いもかけないことを言われたものだったので、私はかなり動揺してしまった。
「ふふっ。いえ。申し訳ありません。ですが、マリアンナがいない間は、あの方と共に旅をしてきたのでしょう? シャルル様ほどの魅力のある方ならばあの女性と恋に落ちても可笑しくないかなと思ったのですわ」
「そ、それは……わ、分からん。アルドンサが私のことをどう思っているのか、知らないし……」
「そうですか。ですが、ワタクシから言わせていただけば、今のシャルル様は最初にお会いしたときよりも恋の対象として見るには大分不十分ですわね」
「……え?」
エリスは私の方に振り返った。
相変らずの仮面のような笑顔である。
「ワタクシと会ったとき、シャルル様は絶望なさっていました。断罪人という死の商売に対し悩み、どうにかしたいのに何も出来ないと、一人で考え込んでいました。ワタクシはそんなシャルル様に対し激しく魅力を感じましたわ。どこまでも愚かで、優しくて、情けなく、慈悲深い……ですが、今のシャルル様は違います。一人ではありませんわ。あの女性が側にいて、シャルル様を支えているのです」
「……それは、いけないことなのか?」
「いいえ。きっと一般的にはいいことなのでしょう? ですが、ワタクシ達断罪人にとってはそれはこの上なく不快なことです」
「不快……マリアンナもそう思っていたというのか?」
「さぁ? はっきりとは言えませんですけれども。少なくともワタクシはそう思ったのですわ。ジェラルド様の屋敷に向かうときに出会ったシャルル様には絶望しかありませんでした。ですが、今のシャルル様にはどこか安堵があります。自分は一人じゃない。自分を支えてくれる存在がいる……そんな風に思っていませんか?」
「そ、それは……」
「ワタクシ達断罪人には、何もない……ですが、今のシャルル様は何もないというわけではないでしょう?」
私は何も言い返せなかった。
否定できなかったのだ。
今の私が何も持っていないと、言うことが出来なかったのである。
「ふふっ……でも、やっぱり素敵ですわ。シャルル様がそんな風に思い悩む表情……ワタクシも一緒に旅をしたかったですわ」
恍惚とした笑みを浮かべてエリスはそう言った。
私はエリスから顔を反らす。
「まぁ、無駄話が過ぎましたわね。さぁ、この部屋ですわ」
「え? この部屋か?」
そこは、昼に私とアルドンサがつれてこられた部屋。
クリスタがいた部屋だった。
扉が開くと、その先には椅子があり、一人の修道女が座っているのが見えた。
「遅かったじゃねぇか。シャルルさんよぉ」
椅子に座っていたクリスタは、私を認めると、右の目を細めて不気味に微笑んだ。




