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革命都市へ

闘技場での戦いに勝利したアルドンサ。そして、シャルルとアルドンサはエリックに連れられ馬車にのる。そこで出くわすのは思いがけない人物だった。

「ああ、こっちこっち」


 闘技場を出てエリックについていくと、そこには馬車が用意してあった。


「あ」


 その馬車を見て思わず私は声を漏らす。


「どうした? シャルル」


 元の服に着替えたアルドンサが私に訊ねてきた。


「あ……ああ、いや、なんでもない。あ、あはは……」


 あまりに驚きすぎて私は思わずごまかしてしまった。

 何しろ、その馬車はかつてジェラルドの屋敷、つまり、断罪教会に私とマリアンナが行った時に使った馬車とまったく同じだった。

 装飾、外観、そして、馬車の運転手も、あの時と同じように黒いフードを目深に被った不気味なヤツだった。


「ほら、お二人さん。さっさと来いよ」

「シャルル。行くぞ」


 仕方なく、私は馬車の方へ向かう。

 馬車の扉を開け、その中に入る。


「あら? シャルル様」


 と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 私は思わず声のほうに顔を向ける。


「あ……え、エリス!?」


 そこにいたのは真紅の修道服を着た、貼り付けたような笑顔の少女、断罪人エリスだった


「お久しぶりですわね。こんなところでお会いするなんて思いもしませんでしたわ」

「あ、ああ。私もだ……なぜ、君がここに?」

「あ? 何? エリスちゃんと旦那さん会ったことあるの?」


 驚く私に、同じく意外そうな顔でそう訊ねてくるエリック。


「ええ。閣下。ちょっと前のことですけれどね」

「ふぅん。世の中狭いねぇ。まぁ、その話は後で聞くとして、ほら、さっさと奥さんも乗って」


 そうして、私とアルドンサが馬車に乗り込むと、エリックが扉を閉め、そのまま馬車は動き出した。

 向かい合う形で私とアルドンサ。そして、エリックとエリスが座ることになった。


「ふふっ。本当ですわね。世の中狭いものですわ」


 思い出すように笑うエリス。

 私もそれに返すように曖昧に笑う。


「おい、シャルル」


 と、アルドンサが私に耳打ちしてきた。


「なんだ?」

「……お前の知り合いとやら、マリアンナの仲間……断罪人か?」

「ええ。そうですわよ」


 エリスは私の代わりにアルドンサの質問に答えた。聞かれていないと思ったのに聞かれていたのが驚きだったのか面食らった顔でアルドンサはエリスを見る。


「はじめまして。ワタクシ、エリスと申します。マリアンナと同じ断罪人ですの。アナタは?」

「あ、ああ。私はアルドンサというものだ。よろしくな」


 すると、エリスはなぜか嘗め回すようにアルドンサを眺めていた。

 その視線が不快だったのかアルドンサは険しい顔をする。


「な、何か?」

「アルドンサ……なるほど。マリアンナが一人で革命都市にやってきた理由がようやく理解できましたわ」

「え? ま、マリアンナが!?」


 私は思わず馬車の中で立ち上がってしまい、天井の部分に頭をぶつけてしまった。


「おいおい、旦那さん。危ないよ」

「すまない、エリック……で、エリス。マリアンナは、革命都市に?」

「ええ、そうですわ。しかし、シャルル様。アナタには幻滅いたしましたわ。マリアンナと放っておいて他の女性に乗り換えてしまうなんて」

「なっ……わ、私はそんなことしていない!」

「でも、少なくともマリアンナはそう思っていたようですわよ?」


 ニッコリと目を細めてそういうエリス。

 私が……マリアンナを放っておいた? マリアンナはそう言う風に思ったというのか?

 しかし、マリアンナは私のことなんかどうでもいいと思っているはずだ。それなのにエリスの言葉を信じるならば、マリアンナがまるで――


「へへっ。なんだい? 旦那さん? もしかして、浮気してたのかい?」


 下品な笑顔を浮かべながら、エリックが茶化してきた。


「わ、私は……そんなことはしていない」

「ええ。そうですわ。閣下。少なくともワタクシが出会った時のシャルル様は、マリアンナのことを第一に考えて行動する紳士でしたもの。もっとも、ワタクシが分かれた後にこの方と出会ってから何があったかわからないのですの、一概にものは言えませんけれど」


 エリスも同じように貼り付けた笑顔を私に向けている。

 私は……そんな気持ちは一切ない。アルドンサを優遇したとか、マリアンナを放っておいたとか、そんな気持ちは一切ないのだ。

 でも、もし、私がそのつもりがなかったとしても、マリアンナがそう言う風に受け取っていたとしたらどうだ?

 だとしたら、私は……


「ああ。そうだ。シャルルはそんな男ではない」


 と、はっきりとした声でアルドンサがそう言った。


「アルドンサ……」

「シャルルは私に対してもマリアンナに対しても優しかった。どちらを優遇するなんてそんなことなかったと、ここまで旅をしてきた私が保証しよう」


 そういってアルドンサは私の方を見て微笑んだ。


「だろ? シャルル」


 私はアルドンサの優しさに感謝しながらゆっくりと頷いた。


「……はぁ。はいはい。そうですかい。ったく、ノロケ話もいい加減にしろってんだ」


 話の展開が面白くなかったのか、エリックが悪態をつきながらそう言った。


「……馬車は半日ほどで都市に着く。それまで大人しくしていてくれよ」


 エリックの言葉を最後に、その後は誰も話をしなくなった。

 ガタガタと馬車に揺られながら私達は向かっていた。

 マリアンナのいる、革命都市に。

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