銀月の姫騎士 2
名門貴族カルリオン家の令嬢、女騎士アルドンサと出会ったシャルルとマリアンナ。マリアンナの不審な様子に気を書けながらも、シャルルはアルドンサの豪快さに振り回されることになるのであった。
「……ラムゼの街、か」
「そうだ。まぁ、小さいようではあるが街のようだな。これからの旅の準備をするには丁度いいだろう」
私とマリアンナ、そして、アルドンサは街の入口で立ち止まっていた。入口の門には「ラムゼの街へようこそ」と書かれている。
「では、宿を探すとするか」
宿、と聞かれて嫌な予感がした。私は思わずマリアンナを見る。
「ん? どうした、シャルル」
「え? ああ……いや……なんでもない」
マリアンナはシスターではない、とはいえなかった。言わなければいけないことなのであるが……といってもいずれバレてしまいそうなことであった。
「ああ。そうだ。シスター。すまないが、馬から下りてくれ。セルバンテスは馬の預かり所に預けてくるからな。お前達は先に宿屋を探しておいてくれ」
そういわれるとマリアンナはすぐに馬から下りた。
「じゃあ、後でな」
アルドンサはそのままセルバンテスを連れて行ってしまった。残された私とマリアンナはその後姿を見送っている。
「さて、宿を探すか」
マリアンナは淡々とそう言った。私は心配だった。果たしてこの街ではマリアンナに部屋を貸してくれる宿屋があるのだろうか……
「おい」
と、私がそんな心配をしていると、後ろからマリアンナが声をかけてきた。
「なんだ? マリアンナ」
「別に、私は野宿でも構わないぞ」
「へ?」
一瞬何を言っているのかわからなかった。しかし、マリアンナは私の理解など気にせずに先を続ける。
「だから、私は別に野宿でもいいと言っているんだ。この街の近くでテントを張るから、荷物を寄越せ」
「な、何を言っているんだ。宿屋に泊まるんだろう?」
しかし、マリアンナは何も言わずに私を睨みつけてくる。
「な、なんだよ……」
思わず私はそう言い返してしまった。すると、そのまま何も言わずにマリアンナは私の背中から荷物を剥ぎ取ったのだ。
「あ……お、おい! 一体どういうつもりだ?」
何も言わずそのままマリアンナはスタスタと歩いていってしまった。
……まただ。マリアンナの意味不明の行動。
しかし、今のマリアンナはまるでなんだか子どものようだった。いつものように死神の異常さから来る行動ではないように思える。
もっとも、いずれにせよ私にとっては一体何がしたいのかわからなかったのだが。
「おい、どうした? シャルル」
と、そこへ丁度セルバンテスを預けてきたアルドンサが戻ってきた。
「ああ……いや、ちょっとな」
「おや? シスターはどうした?」
「あ……じ、実はだな。その……シスターは宿屋に泊まれないのだ」
「何? どういうことだ?」
「神に仕える乙女は俗物的な人間と関わってはいけないという決まりでね……あ、あはは……」
「ほぉ……随分と厳格な教えなのだな。所属する修道院の教えなのか?」
「あ、ああ。そ、そうだ」
完全に不自然な笑いを浮かべて私は応対する。これではバレてしまうのは時間の問題である。なんとか話をそらさなければいけない。
「と、というわけであるから、我々は宿屋に泊まるとしようか」
「何? おいおい。従者であるお前はシスターに同伴しなくていいのか?」
「あ……し、シスターは一人で神に祈らなければならないのだ。だ、だから、私がいては邪魔なのだよ。さぁ、早く宿屋に向かおう」
仕方がないので私は無理矢理にでも話を摩り替えることにした。そして、そのまま押し通した。
アルドンサは明らかに不審そうに私を見ていたが、言われるままに私と共に宿屋を探すこととなった。
程なくして宿屋は見つかった。小さい街ながらもしっかりとした宿屋だった。
私とアルドンサは部屋に通され、私はすぐさまベッドに横になってしまった。
「なんだ。シャルル。そんなに疲れていたのか」
「あ、ああ……まぁな」
成り行きとはいえ、家を追い出されてから始めてマリアンナ以外の人間と宿屋に泊まることになりそうである。
そう考えるとなんだか酷く安堵してしまったのだ。決してマリアンナといると心が休まらないというのではないが、なんというか……まるで見知った友人といるような感じがしたのだ。
「そうだな。確かに吾輩もそれなりに疲れてしまったよ」
そういってアルドンサは装備していた甲冑と鎧を外し始めた。鎧の下からは、鎖帷子を纏った、重厚な鎧とは正反対のすらりとした美しい肢体が現れた。
「……って、お、おい!」
「ん? どうした?」
「な、なんで私の目の前でいきなり脱いでいるんだ!?」
いつのまにか、アルドンサの上半身は完全に裸体の一歩手前となっていた。
「なんだ。不都合か?」
「あ、当たり前だろう! わ、私は男だぞ!?」
「そうだな。それがどうかしたか?」
「なっ……い、いいか! 私は外で待っているから、着替え終わったら教えてくれ!」
私はそのまま急いで外に出た。
まったく……カルリオン家の令嬢なのであろう? それなのに、男性の前でいきなり服を脱ぎだすとは……男勝りなのは性格だけにしてほしいものだ。
といっても、私は少し昂揚していた。脳裏には完全にアルドンサの引き締まった肢体が記憶されてしまっている。
「い、いかん……元、とはいえ、私は誇り高い貴族なのだ……むやみやらたに女性に欲情するなど……あってはならぬのだ」
そういい聞かせて私は心を落ち着かせることにした。
そして、しばらく扉の前で待った後「入っていいぞ」との声が聞こえた。
扉を開ける。
「どうだ? これなら問題ないだろう?」
そういうアルドンサの格好は、シャツにズボンという、まるで男性のようなそれであった。
長い黒髪がなければ勇ましい美少年といっても通じそうである。
「あ、ああ。そうだな」
「ふふっ。別によかったのだぞ。シャルル。お前が見たければ吾輩の身体などいくらでも見せてやったのに」
「なっ……! ……貴女には乙女としての恥じらいが足りないのではないか?」
「乙女の恥じらい? ふっ……吾輩は騎士だぞ? そんなものは十歳の小娘だった頃に捨ててきた。なんなら、今目の前でもう一度裸になってもいいのだぞ?」
そういってアルドンサはシャツのボタンを外し始めたので私はおお慌ててでそれを静止した。
「……わ、わかった。貴女は騎士だからな。私が気にしすぎだったのかもしれない」
「わかればよろしい。よし。ではさっそく酒場に繰り出すとするか」
「……は?」
そういって立ち上がったアルドンサはいきなり私の腕を掴むと、そのまま引きずるようにして歩き出した。
「旅の疲れは酒で癒すのが一番だ! さぁ、行くぞ!」
「なっ……ちょ、お、おい!」
何も抵抗することが出来ず、私はされるがままに連行されてしまったのであった。




