死神との出会い 2
夜になって、私は行動を開始した。
店の裏口に回り、ドアノブを握る。
しかし、開かなかった。
「く、くそぉ……」
もちろん、扉が開かないのも当たり前だ。
いくら庶民でも、このご時世、そんな無用心な真似はしない。
「あ、開けろ」
私は自棄になってドアをドンドンと叩いた。もはや何も考えていなかった。
乱暴にドアを叩くだけである。
そのうち、明かりがついて人影が見えた。
「……ったく、なんだ? 今何時だと思って……」
「う、動くな!」
私は朝に見つけたガラスの破片を、家の奥からでてきた人物――おそらくここの店主だろう――に向かって突きつける。
店主は寝ぼけ眼であったが、しばらくすると、それがどういう状況か把握したようだった。
「う、動くなよ! いいか? 少しでいい! 少しでいいから、私に食べ物を渡せ!」
「な、なんだそりゃ?」
「うるさい! 早く渡せ!」
私はガラスの破片を振り回す。
驚いた店主はそそくさと店の奥に戻り、リンゴを一個手にして持ってきた。
「ほらよ。早くもって行け」
「こ、こんなもの……?」
「こんなものってなんだよ。宿無しに恵んでやるだけありがたいと思え」
「なっ……! わ、私は誇り高い貴族、フロベール家の……」
「はいはい。そんな薄汚れた貴族様がどこにいるんですかねぇ? 早くお引取りくださいよ。貴族様」
その時の私は、盗みに入ったということもあってか、非常に昂ぶっていた。
そのため、そんな風に馬鹿にされれば、自然と溜まっていたストレスは爆発したのである。
「き、貴様ぁ!」
「お、おい! や、やめろっ!」
私はガラスの破片を手に持ち、店主めがけて振り下ろした。
私はその時酷く冷静であった。
ああ、私はコイツを殺すな、と冷静にそう考えていた。
だが、そうはならなかった。
相変わらず脅えてはいたが、次の瞬間にも店主は生きていた。
私の片手は、店主に振り下ろされることはなかったのだ。
「なんだ?」
「やめろ」
まるで、心臓の動きさえも停止させるような冷たい声が聞こえた。
私は恐る恐る声のした方向を見る。
そこにいたのは、少女だった。
目はまるで深海のような青色。髪は雪のように真っ白。
そして、着ている服は修道服であった。
その修道服は暗闇のように漆黒で、何もかもを飲み込んでしまうような恐ろしい色合いだった。