死神との出会い 1
「……か、勘当?」
屋敷の大広間に呼び出された私は、父に開口一番、そう言われた。
隣には我が弟であるジョージが、これまた厳格な顔で立っている。
「な……何を言っているのですか、父上? なぜ、フロベール家の長男である私が勘当されなければならないのです?」
「当たり前だ。シャルルよ。自分の振る舞いを思い出せ。とにかくお前はもうフロベール家の長男ではない。早々にこの家から出て行くがよい」
「か……勘弁してください! 父上! 私にこの家から出て、どうしろというのですか?」
「知らん。ワシにはもう関係のない人間のことだ」
「そ、そんな……」
私は愕然とした。悪い冗談だと思ったのだ。
だが、父は冗談を言うタイプの人間ではなかったし、父の隣にいるジョージは、私のことをまるでゴミでも見るかのような目で見ていた。
「兄さん。アナタはあまりに愚かでした。これは当然の報いです」
「き、貴様! 兄に向かってなんだ! その口の利き方は!」
「いいえ。もうアナタは私の兄ではありません。おい、番兵を呼べ。このどうしようもない不埒者をさっとさとこの家から追い出すのだ」
ジョージがそう指示すると、見慣れた番兵達が大広間にやってきた。
彼らは私の腕を掴むと、そのまま連れて行こうとする。
「は、離せっ! 何をするっ! 私は次代のフロベール家の当主だぞ! 貴様ら、こんなことをして……」
「早くその馬鹿者を路地裏にでも捨てて来い」
結果、私はそのまま番兵達により屋敷から追い出されてしまった。
私は硬く閉ざされた門の前に立ち尽くした。
ふと横を見ると、いつものように布を身体に巻きつけた宿無しが、同類を見るかのような哀れみの目を私に向けてきた。
私は背筋に寒気を覚えながら、足早にその場を立ち去った。
そして、私は一週間、路頭に迷った。
今にして思えば、一週間など大したことないように思えるが、貴族の世界しか知らないお坊ちゃまにしてみれば、地獄の一週間であった。
夜盗に脅え、殺人鬼に脅えた。
よくあの路地裏でゴミのように打ち捨てられなかったものである。
そして、ちょうど一週間が過ぎたある日のことだった。
私は死んだ魚のような目で空を仰いでいた。
着ている服は屋敷を追い出されたままのものだ。
薄汚れ、上等な生地もボロ布と変わらないものとなっている。
おまけに髪はボサボサで、とても元貴族とは思えない格好だった。
皆が私を哀れみの目で見て通り過ぎていく。
ふと視線を移すと、一昨日、強盗に入られた家屋の窓ガラスが粉々になって散乱し、私のやつれた表情を反射していた。
完全に、私は限界だった。
「……た……食べ物……」
この一週間、丸々殆ど食べていない。
飲み水は噴水の水、そして、雨水だ。
「も、もう限界だ……よし」
私は決意した。
もうヤケだ。
もはや、犯罪に手を染めても仕方ない。生きるためだ、と。
私はその時、目の前の商店に盗みに入ることを決意した。
もちろん算段はない。だが、きっとなんとかなる。
なにせ、私は誇り高いフロベール家の長男だ。盗みもうまくいくのだ。
ショートしきった思考回路で私はそう思った。
しかし、その決断こそが、私にとっての大きな分岐点となったのだが。