今までのこと
「隣、座るぞ」
そう宣言され、マリアンナは私の隣に座った。
私は思わず身体をこわばらせる。
いきなり隣にマリアンナが座ってくるとは思っても見なかったからである。
また、酔っている、ってヤツなのだろうか。
「今日は酔ってないぞ」
「え? あ、ああ。そうなのか……」
私は思わず戸惑った。
どうにも心を見透かされていたようである。
「気にしているのか」
「え? な、何を?」
「私と口付けしたことだ」
「なっ……お、お前なぁ……」
私がそういうとマリアンナはふと目を反らした。
「別に、気にしてないか」
「え? あ、いや……」
「なぁ、シャルル」
「な……なんだよ」
「悪かったな」
マリアンナは呟くようにそう言った。
私はマリアンナの方を見る。
「……なんで謝るんだ?」
「いや、まぁ、あれだろ。お前には、アルドンサがいるじゃないか」
「あ、ああ……まぁな」
「だから、ああいったことは本当は良くないんだろ?」
「良くないというか……あー……マリアンナ」
「なんだ」
「その……口付けというのは……愛情表現の一種だと思うんだが……その……お前は……」
私はそれ以上先を言えなかった。
言って、どうするというのだ。
ゲイツは私に言った。
マリアンナの気持ちを考えろ、と。
しかし、私にはマリアンナの気持ちを考えたところで、それに対して応えることなど――
「いや、いいんだ」
私が先を続けるのに戸惑っていると、マリアンナがそう言った。
「私は、別に見返りなど求めていない」
「え? 見返りって……」
「そのままの意味だ。好意の見返りってことだな」
マリアンナはそう言うとフッと、自嘲気味に目を細めた。
「いいんだ。もう。ただ、これからどうなるかわからないから、お前にちょっとだけ確認したかっただけなんだ」
「マリアンナ……」
「シャルル。あのアリシアとかいうヤツも言ってたろ。もう明日にはクローネを奪還するんだ。何も考えるな。ただ、あのモニカ達からクローネを奪還することだけを考えろ」
マリアンナはそう言って立ち上がり、そのまま廊下を行ってしまった。
そうは言っても、やはりその通りにはできなかった。
「私は……はぁ」
何も言うことが出来ず、ただ溜息をついた。
だが、心の奥底では分かっていた。
明日は、決戦の日になるのだ、と。




