三度目の古城
「……はぁ」
次の日の朝。
私は何度目かわからない溜息をついた。
「そう深く考えるなよ、兄ちゃん」
ポンと、隣を歩いていたゲイツが肩を叩く。
「こういう時はな、悪い方向に考えたって仕方ねぇんだ。とにかく、いい方向に物事は考えたほうがいいぜ」
「ゲイツ……しかし、私は……」
私の言葉に反応したのか、隣にイルマがやってきた。
「シャルル……その……本当にごめん」
「え? あ、ああ。イルマ。いいんだ。気にしないでくれ」
「でも……」
「おい、イルマ。兄ちゃんが気にするなって言ってんだ。それ以上喋ると、今度は拳骨で殴るぞ」
そういわれてしまうと何もいえなくなってしまったのか、イルマはそれ以上喋らなかった。
私の前を行くマリアンナも、特に何も言う様子はない。
確かに、ゲイツの言う通りかもしれない。
ミネットの無事を信じて、今はクローネまでの道を進めねばならないだろう……
「あ。おい、兄ちゃん。城っていうのは、あれか?」
と、ゲイツが指差した。
その先には、確かに、黒い巨大な影が聳えている。
見るのもこれで三度目の巨大な影……
まさしく、アリシアの古城だった。
「ああ。そうだ」
「なるほど。確かに城だな。拠点としては上等よ。野郎共! 城が見えたぞ!」
ゲイツがそう言うと、後ろを着いて来ていた男達の大声の返事が聞こえてきた。
それを聞いていると、ついにここまできてしまったのだと、私としてもいよいよ実感できた。
そして、私達は城の前まで程なくしてたどり着いた。
すると、門の前に人影が見える。
「おい、兄ちゃん。誰かいるじゃないか」
「あ、ああ。あの城の主だ」
「何? 城の主?」
ゲイツが怪訝そうな顔をする。
そして、しばらくすると、私達はその城の主の前までやってきた。
城の主は相変わらずの様子で私達の前に姿を表した。
長く綺麗な髪。
そして深い夜のように真っ黒で美しい瞳。
黒いドレスを纏ったその少女は私達を前にしても穏やかな笑みを浮かべたままだった。
「アリシア」
私が名前を呼ぶと、アリシアは私に微笑んだ。
「シャルル。よくやったわ。さすがね」
「あ、あはは……いや。そうでもないさ」
「ところで……あの小さな王様は?」
そう聞かれると私は思わずアリシアから顔を反らしてしまった。
「そう……わかったわ。話は後にしましょう」
すると、アリシアはゲイツと傭兵達のほうに顔を向ける。
「始めまして。私の名前はアリシア・アルフォード。この城の主です。よろしく」
そして、男達に向かって深くお辞儀したのだった。




