クローネ攻略会議
「お頭~? ……って、あれ?」
扉を開けて入ってきたのは、イルマだった。
「あぁ? なんだ、テメェ。イルマ。今までどこに行ってやがった」
「あ……お、お頭を探してて……」
「バカヤロウ。どうせどっかで昼寝でもしてたんだろうが!」
「痛っ! う、うぅ~……」
ゲイツに拳骨を貰って、イルマは不機嫌そうに唇を尖らせた。
「……で、話を戻すか。クローネの入口ってのは、基本的に正面だけなのか?」
そう。
私達はゲイツの住処で、既に具体的なクローネ攻略の話をしていたのだ。
ゲイツには今までの話は大体した。
敵は何者なのか。どれくらいの数なのか、などである。
「あ、ああ。そうだ。後は回りは城壁……他の箇所からの侵入はまず無理だと思う」
ミネットは悲しそうにそう言った。
クローネは王都だ。
故に、守りは完璧。
だから、王都として機能を十二分に果たしている。
そのクローネを今から私達は落とそうとしているのだから、土台無茶な話である。
「ゲイツ……その……一応、このクローネ奪還には他の筋にも応援を頼んでいる。だから、お前達とあわせてそれなりの戦力にはなると思うが……」
「だけどよぉ、兄ちゃん。相手は断罪人なんだろう。奴ら、殺しのプロだぜ。奴等一人殺すのに俺達は軽く三人はやられるって計算した方がいい。で、クローネにはその断罪人共がうようよいるわけだ……コイツは難しいぜ」
ゲイツは顎を指先で掻きながら唸った。
「相手が正規の軍隊なら話は別だが……断罪人ってのはあんまり相手にしたことがないもんでね。そうなると……やっぱり方法は一つしかねぇな」
「その方法って……なんだ?」
私が訪ねると、ゲイツはニヤリと微笑んだ。
「そりゃあ、兄ちゃん。略奪よ」
「え……略奪?」
「おうよ。奪って、燃やして、蹂躙するのさ。つまり、俺達傭兵は、クローネを滅茶苦茶にする、ってわけだ」
「……は?」
思わず間の抜けた声を出してしまった。
しかし、ゲイツの表情には何か考えがあるようだった。
「要するに、奴らにこれをクローネ奪還だと思わせないってことだ。単純に荒くれ者共が略奪にやってきた、と。とりあえず俺達は各所で騒ぎを起こす。なるべく街の離れた何箇所かで、だ。そこに断罪人共が駆けつけてきてくれればこっちのもんだ。今までの話からすると要するに城にいるモニカ、ってヤツをどうにかすればいいんだろ? だったら、なんのことはない。そこにいる断罪人一人いれば事足りる。俺達はさっき表れた雑魚断罪人共を城から引きずりだすことにあるってわけだな」
「し、しかし、それではお前達が囮に……」
そこまでいうとゲイツは私を見た。
鋭い目つきで私を睨む。
思わず私はすくみあがってしまった。
「兄ちゃん。言葉に気を付けな」
「あ、ああ……すまん」
「こういうのは囮って言わねぇんだよ。囮ってのは、捨て駒扱いされる奴らのことだ。これはあくまで陽動作戦、っていうんだぜ?」
ゲイツは軽くウィンクしてそう言った。
私はなんだか思わず気が抜けてしまった。
「それに、そのモニカってヤツ、傭兵を囮にしたそうじゃねぇか。確かによくわかんねぇ奴らと契約しちゃってそんな仕事する奴らもそうだが、基本的に俺達は金さえもらえれば働く、割りと屑な奴らなんでね。だからって、捨て駒扱いされるのは気にくわねぇ。そこんところを、そのモニカってヤツに教えてやろうじゃねぇか」
そういってゲイツは立ち上がった。
「さぁて。兄ちゃん。王様よぉ。やることはさっさとやっちまったほうがいい。明日には出発だ」
「え? あ、明日?」
「おうよ。さぁて……今日は飲むぞぉ! がっはっはっは!」
そういってゲイツは大声で笑い出したのだった。




