眠った町で
「……はぁ。やっと着いた」
ミネットは私と歩いている途中で限界がやってきたのか、歩きながらウトウトし始めた。
仕方ないので私がまた背中に乗せてやると、あっという間に眠ってしまった。
結局、私はミネットを再び背中に乗せて宿屋の入口までやってきたのである。
「おい」
「うわっ!? あ……な、なんだ。マリアンナか……」
そこへいきなり声をかけられたので必要以上に驚いてしまった。
しかし、声のした方を見てみるとそこにいたのは夜の闇と同じくらいに暗い色の服を来たマリアンナであった。
「なんだとはなんだ。それより、お前何やってんだ」
「え? あ、ああ……これはその……」
「そのガキがまた泣きだしたから宥めていたんだろう?」
「え? あ、ああ。なんで知ってるんだ?」
「見ていたからだ」
淡々とマリアンナはそう言った。
「……え? 見てた? 私とミネットのことを?」
「ああ。見ていた」
「あ、ああ……そうか。見ていたのか……」
まさかマリアンナが見ていたとは思いもよらなかった。
いや、そもそもマリアンナの気配を察知することなんて私にはできないのだから仕方ないことだとは思うのだが。
「……あ。というか、お前、一体今まで何して……」
思わず私は次の言葉に困ってしまった。
まさかとは思うが、マリアンナはこの町でまた「依頼」を受けていたのではないか。
そう考えてしまったからである。
しばらくの沈黙の後、マリアンナは小さく溜息をついた。
「していない」
「え?」
「だから、断罪だろう? お前が言いたいのは」
そういわれてしまって私はさらに返す返事に困る。
マリアンナはその蒼い瞳で私を見つめている。
その蒼さはどこか寂しそうにも思えた。
「お前、ちょっとそのガキを部屋に置いて来い」
「え? な、なんで?」
「いいから、置いて来い」
嫌だと言わせない威圧感が、その言葉にはあった。
仕方がないので私は、ミネットを部屋のベッドに横にさせ、そのまま部屋を出た。
隣の私とイルマの部屋を覗いて見ると、イルマが気持ち良さそうに大きないびきをかいて眠っていた。
「ははは……暢気なヤツだな」
私はその様子を見て苦笑いしてから、マリアンナの下へと急いだのだった。




