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悲しい王様

「……ひっく……ぐすっ……」


 いまだにミネットはしゃくりあげながら、目を擦っている。

 私はどうしたらいいかわからず、適当に他の場所を見る。

 町は既に深夜ということでかなり静かだ。


「……落ち着いたか?」


 耐えかねて私はミネットに訊ねた。

 ミネットはコクリと小さく頷いた。


「……そうか。で、どうした?」

「……なんでもない」

「はぁ? あのなぁ……なんでもないわけないだろ? どうして泣いたんだ?」


 ミネットは黙りこくっている。

 思わず私は溜息をついてしまった。


「……お前は少し前の私に似ているよ」

「え? ど、どういうことだ?」

「未だに自分は特別な存在で、選ばれた存在だと思っている……そうだろう?」

「あ、当たり前だ! ぼ、僕は王様だぞ!」

「だろう? だが、どうだ? ここまでの旅でお前を王様扱いしてくれるヤツはいたか?」


 そういわれてミネットは黙ってしまった。


「……いなかった」

「ああ、そうだ。つまり、結局私やお前は狭い世界で生きてきたってことなんだよな」

「狭い……世界?」

「そう。貴族や王の世界なんて、この世界のほんの小さなものなんだ。だから、そこで得た地位や身分なんてそこからはみ出してしまえばなんの価値もない。私は少なくともそれをこれまでの旅で思い知らされたよ」


 私はミネットの目を見る。

 未だその目の端には涙が溜まっている。


「だからな、ミネット。もう自分のことを王だとか考えなくて言いと思うんだ」

「え……そ、それってどういう……」

「その……もっと頼って欲しいんだよ。少なくとも……私くらいには。お前を見ていると、どうも我慢しているように見えるんだ……いや。実際少し前の私は我慢していた。初めて宿に泊まったときなんてなんて小さい部屋なんだろうって驚いたし……だ、だから、少なくともお前の気持ちはわかるつもりだ」


 ミネットはキョトンとして私を見ている。

 私は、自分で自分が何を言っているのか段々わからなくなってきてしまって、思わず恥ずかしくなる。


「あー……まぁ、つまりだ。無理をしないでくれ。少なくとも私やマリアンナは、お前の味方だからな」


 とりあえず言葉をまとめる。

 本当は他にもっと上手く言おうと思ったのだが……どうにも上手くいえなかった。

 ミネットは相変らず私をジッと見つめている。


「……ぐすっ……ひっく……うぅ……」

「え? ちょ、ちょっと……なんでまた泣いているんだ?」

「……だ、だって……シャルルが……優しいから……」

「はぁ? な、なんで私が優しいと泣くんだ?」

「だ、だって……私……今までそんな風に誰かに言われたことないから……」


 どうしたらいいかいよいよわからなくなってしまった。


「あー……そ、そうか……ま、まぁ、その……ごめん」

「ぐすっ……え?」

「あ、いや……なんというか……すまん」


 思わず私は謝ってしまった。

 すると、ミネットは泣き止んだ。


「……ぷっ……あははは!」

「え?」


 と思うと、急にミネットは笑い出した。


「な、なんだ?」

「あはは……う、ううん。なんでもない。お前が、面白いからだ」


 なんだかよくわからなかったが、とりあえず笑顔になってくれたミネットを見て私は思わず安心する。


「じゃあ……もう大丈夫か?」

「ああ。大丈夫。さぁ、行こう」


 ミネットはニッコリと笑って私と並んで宿に戻る道を歩き始めた。

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