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傭兵イルマ 4

「……で、何から話す?」


 机を挟んで、イルマは私の顔を見ながらニッコリと微笑んだ。


「へ? 何からって?」


 私は隣で机に突っ伏して眠ってしまっているミネットに上着を着せてやってからイルマの方を見た。

 私達は今酒場にいた。

 飯を食いに行くと言ったら、着いてきたのは案の定ミネットだけだった。

 ミネットは私達と同じように飯を食い、おまけに酒まで飲んだ。

 私が止した方がいいと言ったにも拘わらずミネットは酒を私達と同じように飲んでしまった。

 そして、現在、完全に酔い潰れたミネットは机に突っ伏して眠ってしまっているのである。


「いや、だからさ。王様も寝ちゃったことだし、なんかないの? 私に聞きたいこととか」

「え? あ、ああ、そうだな……君はずっと傭兵をやっているのか?」


 すると、イルマは得意気な顔で私を見る。


「そうだよ。私は10の頃からずっと傭兵さ」

「10!? そ、そんなに小さい頃からか?」

「ああ、そうだよ。まぁ、小さい頃は大変だったけど、慣れちゃった今となっては別に大変な仕事じゃないよ?」


 そういってイルマは酒の入った器を掴むと、それを一気に口に流し込んだ。


「そ、そうか……しかし、危険な仕事もしてきたんだろう?」

「そりゃあ、傭兵だからね。危険じゃない仕事の方が少なかったかなぁ」

「それでも、君は傭兵を続けたのは、なぜだ?」

「う~ん……まぁ、お頭には恩義があるからね。勝手にどっか行っちゃうのも悪いでしょ?」

「え? 恩義?」


 すると、イルマはキョトンとした顔をしたが、同時に何かを思い出したかのようにポンと手を叩いた。


「ああ、そうだ。言ってなかったね。私はね、お頭に拾われたんだよ」

「え? ひ、拾われた?」

「そうそう。なんでもね、赤ん坊の頃、ベルリヒンゲンの前に捨てられてたんだって。それで普通なら女の赤ん坊なんてそのままにしておくんだけど、なんでも、私、赤ちゃんの頃から身体が大きかったらしくて、お頭、勘違いしてそのまま育てちゃったんだってさ。あはは~、可笑しいでしょ?」


 嬉しそうに笑いながら話すイルマ。

 しかし、私は笑うことはできなかった。

 どこかの誰かさんと目の前の大柄な少女の境遇を重ねて見てしまったからである。

 私の周りにはどうしてこう、こんな境遇の女の子ばかり集まってくるのだか……


「そ、そうか……大変だったんだな」

「まぁね~。でも、別に悲しいとかそういうのはないかな? お頭には一応目をかけてもらってるし。まぁ、怖いからちょっと苦手なんだけどね……」


 そういってイルマはまた酒を煽った。

 そんなイルマを見ていると私は少し安心した。

 どうやら、イルマは自分の境遇を必要以上に悲しむこともなく、あるがままを受け入れているらしい。

 そう考えると、なんだかちょっと安心できたのだ。

 皆が皆、辛い境遇にあっても、悲しい人生を送っているのではないだと、私は認識できたからである。


「でも、まぁ、アンタの方が大変みたいだよね?」

「え?」


 と、ふいにイルマはニヤリと笑う。


「だってさぁ、断罪人と……この王様だっけ? こんな二人とベルリヒンゲンまでやってきたんでしょう? 王様はよくわかんないけど、断罪人と一緒に歩いているってことは、何かあったんでしょ?」

「あ、ああ……まぁ、話せば長くなるのだが――」

「あ! おじさーん! こっちにもお酒もうちょっと持ってきてー!」


 と、いきなりイルマは大声で酒を要求した。


「ま、まだ飲むのか?」

「だって、長い話になるんでしょ?」


 ニカッと歯をむき出して笑うイルマ。

 結局、私とイルマは夜遅くまで酒場にいたのだった。

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