無邪気な慰め
その後、私は眠れずにじっと星空を見つめていた。
無論、その理由はマリアンナの言葉のせいだ。
元々、考えてみれば、私の目的はマリアンナを人間にする、ということだった。
しかし、今の私の中では、その目的は革命や諸々の事情によってないがしろになっていたのではないだろうか?
無論、ないがしろにしようとしていたのではない。
ただ、マリアンナにああ言われてしまうとどうしても考えざるを得なかった。
「……はぁ」
思わず溜息が零れる。
無論、モニカとクリスタを止めなければ、この国が最悪の事態に陥ってしまう事は間違いない。
しかし、果たして「断罪人を人間にする」という目的は、それで達成されるのだろうか?
仮に、モニカとクリスタを打倒したところで、マリアンナを救うことが、私にはできるのだろうか……
「……かといって、今の私には……」
「……シャ、シャルル」
と、聞こえてきた声に私は身体を起こす。
「ミネット?」
見るとミネットが困り顔で私を見ていた。
「あ……よ、よかった……」
「なんだ? どうしたんだ?」
「え、あ……そ、その……」
なぜかミネットはモジモジとして恥ずかしそうである。
一体どうしたというのだろうか。
「なんだ? 言ってくれ」
「あ……そ、その……お、おし……」
「え? おし?」
ミネットは恥ずかしそうに顔を反らした。
「え? ああ……なるほど。そこらへんの草の陰ででもしてくればいいんじゃないか」
すると、ミネットは顔を真っ赤にして私を見る。
「ひ、一人じゃ怖いだろ!」
そういって涙目になって私を見た。
なるほど。どうやら一人で行きたくない、ということらしい。
「わかった。じゃあ、行こう」
そういって私はミネットと共に立ち上がり、少し離れた草影まで連れて行った。
「ぜ、絶対に見るなよ!」
「ああ。わかっている」
そういってミネットは草陰に入っていった。
やれやれ……トイレくらい一人でいってほしいものである。
しばらく虫の声しか聞こえてこない夜空の下で、私がぼんやりとしていると、ミネットが戻ってきた。
「もう大丈夫か?」
すると、不機嫌そうにミネットは頷いた。
「そうか。じゃあ、戻ろう」
「……わ、悪かったな」
「え?」
と、ミネットはぼそっとやっと聞き取れるくらいの声で確かに呟いた。
「……迷惑かけて、悪かった」
「ああ……気にしないでくれ。さぁ、戻ろう」
「……お前たちの話、聞いてたぞ」
と、次に出てきた言葉に私は驚いてミネットの方に振り返る。
「なんだ。起きてたのか……」
「……なぁ、シャルル、その……あの黒いチビシスターは……人間じゃないのか?」
ミネットが不安そうにそう訊ねた。
私は言葉に詰まった。
そして、しばらく考える。
「……ミネットには、どう見えるんだ?」
「え?」
私はそれ以上何も言わなかった。
ミネットは、少し考え込むように俯いた後、顔をあげて私を見る。
「……人間に、見えるぞ?」
困ったような顔でミネットはそう言った。
その時、私は、何故だか少し気持ちが軽くなった気がした。
「……ふふっ。そうか」
「え? 違うのか?」
「いや、違わない。マリアンナは……普通の人間だよ」
私は相変らず困惑顔のミネットに、確かめるようにしっりとそう言ったのだった。




