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愚者と死神と王様 1

「では、行ってくる」


 次の日の朝早く、私達はアリシアと別れを告げるために古びた城門の前に立っていた。


「はいはい。どうせ戻ってくるんですもの。別に名残惜しくも何ともないわ」


 困ったように笑いながら、アリシアはそう言った。


「あ、あはは……すまない」

「謝らなくていいのよ、シャルル。むしろ、ちゃんと戻ってきてよね?」

「ああ、必ず戻ってくる」


 そういって私達は歩き出した。

 振り返ってもう一度アリシアの方を向く。

 不死身の吸血鬼は手のひらをヒラヒラさせてこちらを見ていた。


「やれやれ。世の中にはまだ不思議なことがあるもんだな」


 と、マリアンナがボソリとそう言った。


「あら。マリアンナでもさすがに死なない人間は驚きでしたか?」


 エリスが興味深そうにそう言った。


「まぁな。それよりもそんな人間と普通に接しているどこぞの馬鹿の方が驚きだがな」

「なっ……う、うるさいな。とにかく、アリシアの話によれば、傭兵の街はかなり遠いそうじゃないか。そうなんだろ? ミネット」


 と、既に不機嫌そうな顔のミネットに、私は訊ねた。

 頬を膨らませながら、ミネットは私の方に振り向いた。


「……ああ、そうだよ。まったく……どうして僕があんな街に行かなくちゃいけないんだ」

「それは、お前がこの国の王だからだ。クローネの市民は恐怖のどん底にいる。お前にはそれを救う義務があるだろう?」

「……フンッ。仕方ないな。ああ、わかっているよ」


 ホントにわかっているのだろうか……いや、まぁ、それをわかるにはミネットは未だに幼すぎるとは思うが……


「ああ、では、シャルル様。ワタクシとアルドンサさんはこれで」


 と、いきなりエリスがそういってきた。


「あ、ああ。そうか……その……アルドンサ?」


 今度はアルドンサを見てみる。

 やっぱりこちらも不機嫌そうだった。


「……なんだ?」


 憮然とした態度で、アルドンサは私に返事をしてきた。


「あ……あ、あまり危ないことはしないでくれよ。エリス。ちゃんとアルドンサを見張っていてくれ」

「もちろん、承知いたしておりますわ。ワタクシからもマリアンナがあまり無茶をしないように、シャルル様に見張っていただくことをお願いしますわ」

「あ、ああ……わかっている」

「あ、それと」


 と、そういうとエリスはいきなり私に近付いてきた。

 そして、そのまま私の頬に軽くキスしたのだ。


「なっ……エリス!?」

「うふふ。だって、またワタクシ、シャルル様と旅ができないんですもの。その代わりといってはなんですけれど、キスぐらいいいでしょう?」


 私は恐る恐るアルドンサを見る。

 思ったとおり、アルドンサは顔を真っ赤にしてエリスを見ていた。


「あら? ダメでしたか?」


 エリスは挑発するようにアルドンサを見る。


「……私はもう行くぞ!」


 そういってアルドンサは足早にその場から立ち去ってしまった。


「あ、待ってください。アルドンサさん」


 軽く私にウィンクしてからエリスが その後を追った。


「……だ、大丈夫なのか?」


 とてもやっていけるとは思えない二人はそのまま私の視界の彼方に消えていった。


「……といっても、私達は私達で大丈夫か不安なんだがな」


 振り返ってみると、そこにいるのは私の背丈の半分くらしかない少女二人。

 一人は死んだような目で、もう一人は相変らずの不機嫌そう目で私を見ている。


「……大丈夫、かな?」


 私は思わず小さく溜息をついてしまったのだった。

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