武器と怪物 1
「アリシア……」
転がった首に、私はフラフラと近寄って行く。
その頭部は確実にアリシアのそれだった。
「あ、ああ……」
意味がわからなかった。
一体、どうしてこうなった。
そして、辺りを見回してみる。
いつのまにか、私は、数十人の修道服の人物に囲まれている。
皆、手にはそれぞれ武器を持っている。
「あ、ああ……だ、ダメだ……」
意味も無く私は呟いた。
殺される。
それだけははっきりとわかった。
断罪人の瞳を見ればわかる。
初めて会ったマリアンナと同じ瞳をしている。
人を殺すのに躊躇のない瞳だ。
まるで道端の草を踏み潰すかのように、奴らは私を殺すだろう。
今目の前で、首だけで転がっているアリシアのように。
「う、うぅ……」
自然と涙が出てくる。
こんなところで……こんな所で死ぬのか?
ようやく、私は自分のすべきことを見つけた。
それに、今さっきソフィアと約束した。
そもそも私には、城に残してきたアルドンサやマリアンナが――
「……死にたくない……死にたくないよ……!」
「じゃあ、死ななきゃいいのよ」
聞こえてきた声に私は驚いた。
アリシアの声だった。
ゆっくりと目を開いてみる。
見ると、アリシアの首は、ニッコリとこちらに微笑みかけているのだ。
「……え?」
「大丈夫よ。ちゃんとお城まで一緒に帰れるから」
目を疑って、思わず目を擦って見るが、やはり笑っている。
というか、喋ったのだ。
「え、えぇ!?」
「何よ。そんな驚かないでよ」
「だ、だって……」
思わず私は周りを見てみる。
と、断罪人たちも驚いたように動きを止めていた。
そして、皆一様にアリシアの首を見つめている。
「あら? どうしたの、断罪人さん達。そんなに首だけで喋る私が珍しい?」
アリシアはニッコリと笑うと、急に目つきを鋭くした。
「でもね……私としてはこんな姿をアナタ達やシャルルに見られるのは、この上なく不愉快なのよ」
その瞬間だった。
「ぐふっ……」
一人の断罪人がいきなり胸を何かで貫かれ、呻きをあげる。
それは、手だった。
しなやかなで美しい手が、一人の断罪人の胸から飛び出ているのである。
断罪人が倒れる。
その背後から現れたのは……
「……はぁ?」
私は思わず間の抜けた声を出してしまった。
それは、首から上のなくなった、アリシアの胴体だったのだ。
「ふぅ。さぁ、さっさと終わらせたいから掛かってきなさい」
アリシアの頭部がそう言うと、断罪人達は一斉にアリシアの胴体に飛びかかっていったのだった。




