神の護る都 1
そして、次の日の早朝だった。
靄の彼方に黒い影が見える。
冷たい空気が、私の頬をそっと撫でた。
「……戻って来たか」
私とアリシアの目の前にそびえるのは、かつて私を迎えた黄金の都、クローネ。
そのはずだった。
しかし、私の目の前にあるクローネは、どこか違った。
無論、都の形が変わっているわけではない。
だが、どこか違うのだ。
それは雰囲気という言葉がもっとも合うかもしれない。
そんな言葉が曖昧であることはわかるが、それでも、何かが違うということだけは私にはわかった。
「ここが、王都?」
アリシアが訪ねてくる。
「ああ……そうだ」
「ふぅん。なんだか、少し寂しい所なのね」
アリシアがつまらなそうにそう言った。
寂しい、か……
「寂しいだけならいいんだけどな……さぁ、行こうか」
私が一歩を踏み出すと、アリシアもそれに続いた。
そのままクローネまで近付いて行く。
すると、程なくして門が見えて来た。
門……ここで私に不安がよぎった。
もし、革命都市のように門番がいたらどうしようか。
あの時は連れがマリアンナだったから切り抜けられた。
しかし、今度はアリシアだ。
あの手はもう使えない……だとすると。
「……あれ?」
しかし、門には誰もいなかった。
門番もいない。前に来たときと同じだった。
「どうしたの?」
「あ、ああ。いや……門番が、いない」
「そうね。よかったじゃない。好都合で」
「そうなんだが……」
どこか、不思議な気がした。
というよりも、嫌な予感がした。
まるで、招き入れられているような……大きな怪物の口に自ら入り込んでいっているような……そんな気がしたのである。
……といっても、足を止めるわけにもいかない。
私とアリシアはそのまま門を通り街の中に入っていった。
「……これは?」
しかし、やはり、私の嫌な予感は当たっていた。
それは、街の中に入ってすぐにわかった。
「な、なんだ、これは……」
街の中には、人っ子一人いなかったのだ。
誰も歩いていない。誰の会話も聞こえない。
ただ殺風景な風景だけが目の前に広がっていた。
「ここ……ホントに王都なのよね?」
アリシアが怪訝そうな顔でそう訊ねる。
そうだ……ここは王都だ。
かつて、私の目の前の道は人で溢れ、活気が漲っていた。
しかし、今はその面影もない。
一体、これは……
「どうするの? シャルル」
「え? そ、そうだな……とりあえず、カルリオン邸に向かおう」
足早に私はカルリオン邸への道を急いだ。
心臓の鼓動が早まっていた。
何かが、不味い。
この街は不味い。
私の直感がそう告げていた。




