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古城の夜に

 結局、その一悶着の後、既に夜ということで眠りにつくことになった。

 アリシアは開いている部屋を使えといったが、広間以外は廃墟同然の場内である。

 結局、私達は広間でそれぞれ床に雑魚寝するという形で寝ることになった。

 私はと言うと、無論、それまでアリシアに聞かされた事実が未だに信じられず、椅子に座って目の前で煌々と燃える蝋燭を見つめていた。

 断罪人、モニカ、そして、革命……

 アリシアが吸血鬼ということが証明されたのだ。

 つまり、アリシアの話は全て真実ということになる。


「……はぁ」

「どうしたの? シャルル」


 と、いつの間にか私の前には、アリシアが座ってこちらを見ていた。

 思わず先ほどエリスの銃弾で貫かれた部分を見てみる。


「……え?」


 見ると、既にそこに血の跡どころか、傷の跡さえ見受けられない。

 それどころか、黒いドレスにさえ、弾丸が貫通した後は見受けられなかった。


「ふふっ。どう? 驚いた?」

「え? あ、ああ……」

「ごめんなさいね。これで、私が本当に化物ってことがわかっちゃったわけだけど……シャルル。私のこと、怖い?」


 アリシアは悪戯っぽい目つきで私を見る。

 なんだかそんな様子を見ているとアリシアが吸血鬼ということも、どうでもよくなってきてしまう感じがした。


「はぁ……自分のことを怖い、だなんて聞いてくる吸血鬼は、あまり怖くないね」

「ふふっ。アナタならそういうと思ったわ。さて、じゃあ本題に入るわ……アナタ達、これからどうするのかしら?」

「え? これから?」

「ええ。私としては、別にいつまでもこのお城にいてくれていいのよ。どうせ暇なんだし、アナタ達といると退屈しなさそうだしね。けど……アナタ達はそうはいかない、って思っているでしょう?」


 アリシアは片目を瞑って私にそう訊ねてくる。

 私としても、それは聞かれる質問だと思っていたのだが、その答えを考えていなかった。


「……どうすれば、いいかな」

「さぁ? 今度ばかりは私にもわからないわね……シャルル。アナタ自身がしたいと思っていることをすればいいと思うわよ」

「私の……したいと思っていること?」


 アリシアは腕を組んで私を見てくる。

 その黒い瞳を見ているとなんだかそのまま吸い込まれそうだったので、思わず目を反らす。

 私の……したいこと。


「……私は、変えたい」

「変える? 何を?」

「……今の現状を、だ」


 アリシアは不思議そうに私を見ていたが、やがてニンマリと嬉しそうに微笑んだ。


「なるほど。で、そのためにはどうしたいのかしら?」

「それは……この状況を打開する必要がある」

「そのために、何をするのかしら?」


 私は言うのを躊躇ったが、一つ、息を吐いて言う覚悟を決めた。


「……まずは、現状を見極める必要がある」


 私がそういうとアリシアは大きく首を縦にして頷いた。


「ふふっ。それ、正解だと思うわ。さて、今のこの国の首都は……クローネって言ったかしら? ここからクローネまでは歩いてどれくらいなのかしら?」

「そうだな……大体、三日だと思う」

「結構長いのね。ま、いいわ。さて、準備をしましょうか」

「え? じゅ、準備?」


 私はアリシアの言葉の意味がわからずに聞き返してしまった。

 すると、アリシアはニッコリと笑う。


「だって、現状を見極めるんでしょう? 私だって、今この国がどうなっているのか、知りたいわ」

「し、しかし、アリシア……君には無関係なことで――」

「無関係? 私だって今は立派なこの国の住民よ。無関係ってことはないんじゃないかしら?」


 アリシアは私に軽くウィンクした。


「あー……しかし、黙ってこのまま出て行ってしまうのは問題だな」

「でも、あんまり大勢で行くと目立つわよ。かといって、行くって言うと、絶対騎士様とかは付いて行くって言いそうだし……」

「ご心配は無用ですわ」


 と、私達が話していると、いきなり割って入ってきた声。


「エリス……起きていたのか」

「はい。シャルル様。アリシアさん。そういうことでしたら、ワタクシにお任せ下さい。留守番をするよう皆に言っておきますわ」

「あ、ああ。ありがとう、エリス」

「しかし、シャルル様。ワタクシには一つ心配がありますわ」

「え? なんだい?」


 と、エリスはアリシアのほうを少し不安げに見つめる。


「ワタクシの銃弾を喰らってしまった方とだけで、クローネに行って果たしてご無事でシャルル様が戻ってこられるかどうか、ということですわ」

「あ、ああ。そういうことか……」


 私はどうしたらいいかわからずアリシアを見る。

 すると、アリシアは得意気な顔で私を見た。


「そう? それじゃあ、聞くけどシスターエリス。アナタの銃弾を喰らって今まで死ななかった人間はいる?」

「え? い、いませんけど……」

「だったら、心配ないんじゃない?」


 アリシアのその言葉に、さすがのエリスも何も言えないようだった。

 さすがは300年以上生きている吸血鬼、といったところだろうか。


「さて、さっそく行きましょうか、シャルル」

「あ、ああ。じゃあ、エリス。頼んだよ」

「はい。いってらっしゃいませ、シャルル様」


 こうして私は今度は、吸血鬼の少女とともに、クローネまでの旅を開始したのだった。

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