吸血姫の憂鬱 4
「ふふっ。そうよね。普通に考えれば永遠の命なんてあり得ない……そう考えるわよね。でも、あの時代はそれが信じられていたのよ。今よりも人々が神や神秘を信じ、それが人間の手によっても可能だと思っていた時代だから」
そういうとアリシアはもう一度椅子に座りなおし、顔の前で両手を組む。
「で、アイツの永遠の命を得るための方法、なんだったと思う?」
と、不意にアリシアの口調が変わって私に話しかけてきたので、私は面食らってしまった。
「え? な、なんだ? 急に……」
「ふふっ。いえね、あまりにも簡単だったものだからおかしくなってきちゃったのよ。ヤツが言った永遠の命を得る方法っていうのは……アイツの血を飲むことだったのよ」
「へ? モニカの……血?」
アリシアはニコニコしながら頷いた。
「そうよ。お父様もお母様も、そして私も揃って言われるとおりにグラスに注がれたアイツの血を飲んだのよ。もっとも、お父様もお母様も途中で全部吐き出しちゃったけどね」
「……で、君だけがそれを飲み干した、というわけか?」
「ええ。おそらく合う人合わない人がいたんじゃないかしら? そして、私は幸運にも……いえ。不運にも適合してしまった、ってわけ」
アリシアはそういい終わると、顔をしかめる。
「……今でも覚えてるわ。アイツの血を全部飲みきった私を見て、アイツは嬉しそうにニンマリと笑ったのよ。きっと、アイツ、仲間が欲しかったんじゃないかしら?」
「仲間?」
「ええ。私が今こういう身体になっているってことは……アナタ達の前に現れたモニカは、きっと私と大して年齢が変わらない容姿だったんじゃないかしら?」
アリシアにそう訊ねられ、何も言わずに私は頷いた。
「そうでしょうね。きっと、永遠の命を授けるなんていうのは建前で、本当はモニカは自分の仲間を増やして自分達だけの国を作ろうとでもしていたんじゃないかしら?」
「自分だけの……国」
「もちろん、私の推測に過ぎないけど」
自分だけの国……
アリシアのその言葉を聞くと、あながちそれは間違っていないように思える。
「アリシア、実は――」
私が先を続けようとすると、アリシアは手を挙げてそれを制した。
「わかっているわよ。そして、アイツは私が言った推測に近いことを実現させた……だからアナタ達がここにいるってことでしょ?」
何も返す言葉がなく、私はただ黙って頷いた。
アリシアはそこまで話すと大きく伸びをして溜息をついた。
「で、断罪人という名前を聞いて私が驚いた理由は、ただ一つ。かつてモニカ含め、魔女とされた者達は弾圧されたって、そこの騎士様は言ったわよね?」
アリシアがそういうとアルドンサも小さく頷く。
「どういう風に弾圧されたか知っている?」
「え? それは……処刑されたり、とかか?」
「そうね。それは今の時代に残っている記録なんかに記されていることでしょうね」
そういうとアリシアは今度はマリアンナとエリスの方に顔を向けた。
「確かに処刑されたわ。でも、それは正規の裁判や手続きを踏んでの処刑じゃなかった。魔女を脅威に感じた人々が独断的に魔女を抹殺しようとしたのよ。そして、その抹殺を担当することになった人々のことを、あの時代、私達は……断罪人、と呼んだのよ」




