吸血姫の憂鬱 3
「……へ?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。
今、アリシアはなんと言った?
モニカ……確かにその名前を口にした……よな?
「え……アリシア……その……今……」
「ええ。言ったわ。モニカ、って」
もう一度言われてしまうと、私はもう何も言い返すことができなかった。
モニカ……確かにアリシアはそう言ったのだ。
「つまり、お前はモニカを知っているようだな」
マリアンナが落ち着きはらった声で訊ねる。
すると、アリシアは小さく息を吐いてマリアンナを見た。
「ええ。知っているわよ。よーく知っているわ」
そして、アリシアは立ちあがった。
「……まず、今からする話は、私が301年と250日前から年をとらずこの姿で生き続けているということを前提にして聞いてくれるかしら?」
私達は、黙ったままでアリシアを見ていた。
アリシアはもう一度大きく息を吐き出して口を開いた。
「……私がこんな身体になったのは、おそらくアイツのせいなのよ」
「アイツ、って……モニカのことか?」
「ええ。魔女モニカ……私が人間だった頃、アイツはそう呼ばれていたわね」
魔女。
その言葉を聞いて私は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
その瞬間、私はモニカのあの瞳を思い出したのだ。
聖女ではなく、どちらかというと、魔女のような恐ろしい瞳を。
「あの女はあの時代、多くの貴族……それは私の家も含めてだったけれど、そういった上流階級の人間に重用されていたの」
「重用? ちょっと待て。確かかつて魔女と呼ばれた存在は、人々から畏れられ弾圧されたと私は聞いているぞ?」
アルドンサが怪訝そうな顔でアリシアに訪ねる。
「ええ。その通りよ。ヤツが重用されていたのはそれが行われる少し前。結局、ヤツも後の魔女に対する弾圧で死んだって聞いていたんだけどね」
「じゃ、じゃあ、なぜヤツは……」
「一気に質問をしないで頂戴、騎士様」
アリシアにそう宥められてアルドンサは口を閉じた。
「先になぜヤツが重用されていたかについて教えるわ。ヤツはね……永遠の命を創生する術を知っていたからよ」
「何? 永遠の……命?」
アリシアは口の端を歪めて自嘲気味に笑った。
「ええ、そう。私は子どもだったから……いえ、今も見た目は子どもね。あの時は見も心も子どもだったからよくは覚えていないわ。だけど、お父様とアイツが話していたことをうっすらと覚えている。アイツは自身も700年以上生きている存在で、だからこそ永遠の命を得る術を知っている、ってね」
あまりにも突拍子もない話に思わず私は理解が追いついていなかった。
待て待て……これは夢ではないのか?
そもそも永遠の命など、普通に考えればあるわけがないだろうに……
しかし、アリシアは意味ありげに微笑んでいる。
私は、いよいよ以て、目の前の少女が吸血鬼であると実感と伴って信じられる気がしてきたのだった。




