吸血姫の憂鬱 2
「で、一体どういう理由でここに戻ってきたの?」
前と同じように長い机のある客間に通され、私達は椅子に腰掛けた。
そして、アリシアは私達が座るなりそう訊ねてきたのだった。
私は少し躊躇ったが、アリシアの黒い瞳を見ていると、黙っていても仕方ないと思った。
「アリシア、実は――」
「ちょっと待て」
と、私が口を開こうとすると、マリアンナがそこに割って入った。
「何かしら? 小さなシスターさん」
しかし、アリシアは気を悪くした様子もなくマリアンナに訊ねる。
「お前は、一体何者だ」
ぶしつけにマリアンナはそう訊ねた。
まぁ……そうなるよな。
アリシアは目を閉じて小さく微笑んだ。
「私こそ聞きたいわね。アナタは聖女の格好をしているけれども、私にさっき斧を向けてきたわよね? それに隣の赤い修道服を着たシスターさんも私に銃を向けてきた……アナタたちこそなんなのかしら?」
「聞いているのはこっちだ。先に答えろ」
「……はいはい。わかったわよ。私はね、吸血鬼なの」
アリシアがそういうとマリアンナは特に反応を示すこともなかった。
エリスも同様に貼り付けたような笑顔のままでアリシアを見ている。
「あら? 驚かないの?」
すると、マリアンナは私の方に視線を向ける。
ああ、なるほど……私は理解した。
「あー……アリシア。その……マリアンナは吸血鬼を知らないようだ」
「え? なんだ……つまらないわね」
不満そうにアリシアは頬を膨らませる。
もっとも、目の前の少女を見て吸血鬼だと言われても、やはり信じられるかどうかは微妙だ。
しかし、私自身はこの少女に血を吸われたのだ。
そうなると、やはりこの少女は吸血鬼ということに……
「で、アナタ達は一体なんなのかしら?」
と、今度はアリシアが質問する番だった。
しかし、マリアンナは顔を背ける。
「ワタクシ達は断罪人、と申します」
代わりにエリスがそう答えた。
アリシアはそれを聞いても無反応だった。
まぁ、断罪人だって、吸血鬼と同じように、いきなりそうだと言われても分かるわけがないものであって――
「……嘘」
と、アリシアがボソリとそう言った。
「な、なんだって? アリシア?」
私は思わず訊ね返す。
しかし、アリシアは何か考え込むように俯いてしまった。
「アリシア? どうしたんだ?」
「……アナタ達、もしかして、誰かに嵌められてここに来たんじゃない?」
「え? 嵌められて?」
嵌められて、というわけではないが……確かに今私達がここにいるのは、あのモニカのせいだ。
モニカが革命の黒幕だということをわからずに私達は完全にヤツの手のひらで踊っていたのである。
そうなると、あながち嵌められた、という表現も間違いではないのかもしれない。
「……ああ。まぁ、そうとも言えるな」
「アナタ達をこんな目にあわせたヤツって……女?」
「あ、ああ。よくわかったな」
「その女は一見優しそうに見えるんだけど、どこか胡散臭くて、何か企んでいるように見えなかった?」
「え? ま、まぁ……」
私が曖昧にそう答えると、アリシアは大きく溜息をついた。
「ど、どうしたんだ? アリシア?」
「……いえね。運命ってものは信じたくないって前に言ったでしょ? でも……ここまで来ると信じざるを得ないかなって思ったのよ」
「何? どういうことだ?」
すると、アリシアは黒い瞳を真っ直ぐに私に向けてこちらを見てきた。
「アナタ達をこんな目にあわせているのは……モニカ、って女よね?」




