敗残道中記 4
「はぁ……なんとか無事に終わったな」
アルドンサと私は両手に荷物を抱えながら街の中を歩いていた。
「ああ。それに街の人にも怪しまれずに済んだしな」
「……そもそも、あのちチビッ子があんな格好をしていたから問題だったのではないか?」
「あはは……ミネットには悪いが、私達が買ってきた服に着替えてもらわないとね。さすがの我がまま坊やにも納得してもらわないと」
私がそう言うとアルドンサはなぜかじぃっと私のことを見る。
「ど、どうした? アルドンサ?」
私は気になってアルドンサに訊ねてみた。
「いや……シャルル。その……お前、もしかしてわかってないのか?」
「え? 何が?」
私がそう返事すると、アルドンサは大きく溜息をついた。
何か、おかしなことを言っただろうか?」
「……まぁ、いい。お前らしいといえばお前らしいよ」
「え? そ、そうなの?」
「ああ、そうだ」
そして、なぜかアルドンサはフフッと小さく笑った。
何が私らしいのかは、よくわからなかったが。
その後、街の入口までやってくると、マリアンナとエリス、そしてミネットが立っているのが見えた。
「遅い!」
と、私達が近付くなり、ミネットが怒った風でそう言った。
「そ、そうか? 悪かったよ」
「うぅ……コイツらと一緒だと息が詰まりそうだった……」
ミネットはげんなりとした顔でそう言う。
しかし、マリアンナもエリスも澄まし顔で立っている。
「あ、あはは……食料はとりあえず買ってきたから当面は大丈夫そうだ」
「おお! そうか! よくやったぞ!」
「あー……それと、ミネット。これ……」
そういって私はアルドンサの方を見る。
「チビッ子。今日からお前が切る服はこれだ」
そういってアルドンサが見せた服は、確かに一般庶民が着ていてもなんら違和感のない服であった。
無論、かつて王であった人間がそれを着ろといわれれば大分抵抗があると分かる程度には貧相なものであったが。
「なっ……そ、そんな服着られるか!」
案の定、ミネットはあり得ないという風な顔でその服を見た。
「ミネット。しかし、安全のためにもこの服に着替えた方が……」
「嫌だ! 大体、そんな服に着替えたところで僕のあふれ出す高貴さが誤魔化せるわけないじゃないか!」
と、どこかで聞いたようなセリフに思わず笑いそうになりながらも、私はミネットの機嫌を損ねないためになんとか吹き出すのを堪えた。
「い、いや……ミネット。逆に考えれば、君はこんな服を着たとしても高貴であるということに変わりはないんじゃないかな?」
「えー……う~ん……」
ミネットは暫く腕を組んで考え込んでいたが、チラチラとなぜか私の方を見てくる。
「どうした? ミネット」
「あ……い、いや……その……着替えるのは……よしとしよう」
「おお! 偉いぞ。じゃあ、さっそく……」
「ま、待て! ……お、お前が見ないという約束をするのなら……着替えてやる」
「……は?」
と、なぜか恥ずかしそうな顔でミネットはそう言った。
お前、というのは……私のことか?
「あー……その、つまり、着替えを私に見られたくない、ということか?」
私が訪ね返すと、ミネットは小さく頷いた。
「……はぁ。まぁ……しかし、むしろ、私以外のほかの三人に見られるほうが恥ずかしくないのか?」
「あ……そ、それは……大丈夫だ」
よく理解できなかったが……ミネットにはミネットなりの考えがあるのだろう。
「シャルル様」
と、ふいにエリスが声をかけてきた。
「え? なんだ? エリス」
「ふふっ。まぁ、ここは一つ、王様のお願いを聞いてあげた方がよろしいのではないでしょうか?」
そういうエリスの笑顔は、どこか意味ありげな感じがしたが……いまいちその意図が私にはわからなかった。
「……ああ。そうだな。じゃあ、着替えが終わったら呼んでくれ」
モヤモヤとした何かを感じながらも、私はそこから離れることにした。




