古城を目指して
「……シャルル。本気でそれは言っているのか?」
渋い顔でアルドンサは訊ねてきた。
私は、何も言わずにただ小さく頷く。
アルドンサは溜息を吐いた。
「……確かに、あそこならば、誰も近付くことはないだろう。だがな……」
「ああ。わかっている。しかし、一番安全であることも事実だ」
私の言葉に、アルドンサは反論できないようだった。
やれやれと肩をすくませるが、おそらくアルドンサも同意見で、わかっているのだろう。
今の私達には、あの城へ戻る以外に、行く宛てがないということを。
「……よし。行き先は決まった。では、出発するとしよう」
「おいおい、待て」
と、マリアンナが私を呼び止める。
「なんだ? マリアンナ」
「お前、何勝手なことをしているんだ。そもそも、どこへ行くつもりだ?」
「あ、ああ。そうだな……革命都市から少し離れた町のに近くにあった古城さ」
「古城? そんな所に行ってどうする?」
「今の私達が身を隠せる場所といえば、そんなところくらいだ。それに、お城に戻りたい、というのはミネットの希望でもあるわけだからな」
ミネットは未だによくわかっていないような顔で私を見る。
「僕は……別に安全な場所があるならどこでもいいぞ」
「だ、そうだ。マリアンナ。悪いが、ここは私の独断で決めさせてもらおう」
そういうとマリアンナは暫く私を、その蒼い瞳で見ていた。
思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまう。
そして、ふっと、私から顔を反らす。
「まったく。私の所有物の癖に、偉くなったものだな」
「え? ま、マリアンナ?」
そして、私に背を向けて、そのままマリアンナは歩き出してしまった。
「ふふっ。マリアンナ。拗ねていますのね」
と、エリスが面白そうにそう言う。
「シャルル様。ワタクシは、シャルル様が行く場所ならどこにでも付いていきますわ」
「え? あ、ああ。すまない、エリス」
「いいえ。その古城とやらまでは、どれくらいの距離なのですか?」
「ああ。そうだな……歩けば5日で着くんじゃないか?」
「5日!?」
と、ミネットが素っ頓狂な声を出した。
「そ、そんなに歩けるかな……」
「歩けるかどうかではない。歩くんだ」
弱気にそう言うミネットに、アルドンサは強い口調でそう言う。
「うぅ……シャルル……」
「あ、あはは……まぁ、疲れたら背負ってあげるくらいはできるよ、ミネット」
そういうとミネットは顔を輝かせて私の方に近寄ってきた。
一方でアルドンサはプイッと、顔を背けて私から距離をとる。
「ふふっ。シャルル様は罪なお方ですわね」
「え? な、なんだって?」
エリスが嬉しそうに口元を押さえながら笑う。
「だって、こんなにも多くの女性に独占欲を起こさせるんですもの。もちろん、ワタクシも含めてですわ」
「ど、独占欲?」
よくわからなかったが……まぁ、エリスの言うことだから仕方ないとは思うのだが……
「シャルル~。疲れたから背負ってよ~」
「え? ま、まだ歩いていないじゃないか」
「だって~……」
ミネットはミネットで、既に私に頼る気満々のようである。
「おい! シャルル! 早く来い!」
そして、前方ではアルドンサがイラ着いた調子で私の名を呼ぶ。
マリアンナも冷たい目つきで私を見た。
エリスだけが、ニコニコと私のことを見ている。
「……やれやれ。アリシアの古城までは、これまで以上に厳しい旅になりそうだな」




