狼と死神 6
「ま、マリアンナ……!」
「お前は、下がっていろ」
すると、今度は三匹の狼が一斉に襲ってきた。
私が恐怖のあまり目を瞑る。
しかし、次に瞼を開けた時には、それら三匹の狼はただの肉塊となっていた。
マリアンナの頬には、獣臭い真っ赤な血が付いている。
「臭いな」
その後も仲間が殺されたことにも怯まず、次々に狼達はマリアンナに挑んでいった。
しかし、それらはことごとく粉砕された。
捕食者であるはずの彼らが、マリアンナという獰猛な獣に食い散らかされていく、という表現が正しかっただろう。
もちろん、私はその光景をただ見ていることしかできなかった。
しばらくすると、狼の群れは、その過半数がマリアンナに惨殺されてしまった。
さすがの狼も、マリアンナがどちらかというと人間の部類ではなく、自分達のような獣の部類に入っていることがわかってきたらしい。
「ふぅ。そろそろ出てきてほしいのだがな」
「え? 何が?」
マリアンナがため息をついたのを見て、私は訊ねる。
「罪人だ」
「罪人? 人がいるのか? こんな狼だらけの森に?」
『人じゃなくて、狼、だな』
私が返答するよりも先に、まるで地獄の底から聞こえてくるようなドスの利いた声が聞こえてきた。
私とマリアンナは、同時にその声の方向を向く。
そちらには、狼がいた。
しかし、それはただの狼ではなかった。
大きい。
まずはそれだった。
他の群れの狼の三倍、いや、四倍はあろうというその体躯。
そして、その口から覗く大きな牙。
一本一本がまるで剣のように鋭く、鈍く輝いていた。
その巨大狼は、存在そのものが、私の知っている狼というもののの常識を覆す存在でだったのである。
「ふぅ。ようやく出てきたか」
『ほぉ……その風体、死神ってわけか』
そして何よりもう一つ驚くべきことは、その狼が喋っていたことだ。
流暢に、人間の言葉を話していたのだ。
私は、ただその不条理さに圧倒されるだけで、呆然とその巨大狼を眺めていた。
「ああ。そうだ。お前は、スパニ村の奴らから罪人扱いされているが……何か言い残すことは?」
『……フン。あいつら。俺が悪いと思っていやがるのか。ふざけるな。悪いのはいつも人間だ。俺はいつも通り生活していただけ。なのに、この俺を罪人認定して断罪依頼とは……はっはっは。舐めた真似してくれるぜ』
狼が笑う、というのはおかしな表現だが、確かにまるで自嘲気味に、その巨大な狼は笑ったように見えた。
「それで終わりか?」
『ああ、終わりだ。お前が断罪しようとするなら、俺は抵抗するぜ。人間はどうかしらねぇが、狼には断罪の時に大人しくしていろ、なんてルールは適用されねぇだろうからな』
「いや、なるべくなら大人しくしていてくれ」
『そりゃあ……出来ない相談だ!』
そして、巨大な狼はマリアンナに飛び掛かってきた。
マリアンナもその狼に斧を振り上げて向かって行く。
「マリアンナ!」
私は思わずそう叫んだ。




