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敗者の旅路 4

「陛下ー!」


 飛び出して行った国王に、私は呼びかけていた。

 しかし、返事はない。


「陛下ー!」


 まったく……今は泣いている場合でもないし、宿を飛び出している場合でもないのだ。

 確かに、王族の暮らしから、あんな貧相な部屋への転落は精神的に来るものがあるかもしれないが……


「……ふっ。まるでちょっと前の私だな」


 思い返せば私自身だって、かつてはボロ宿で泊まることを激しく嫌悪したのだ。

 それが国王ともなれば、それも仕方のないことなのかもしれない……


「……ひっく……ぐすっ……」


 と、私が歩いていると啜り泣く声が聞こえて来た。

 声が聞こえてくるのは、村長の家の裏手からのようだった。

 私はゆっくりと声のする方に近付いて行く。


「……陛下」


 と、そこには涙を両目から溢れさせているブランダ王国元国王の姿があった。

 両膝を抱えて小さく縮こまっている。


「……な、なんだよぉ」


 涙を擦りながら、国王は私を睨みつけた。


「陛下……お部屋に戻りましょう。外は危険です。いつ革命軍の追っ手が来るか……」

「……嫌だ。戻りたくない。だって、カルリオンが……」


 そのまま陛下の声が小さくなった。

 よっぽど、アルドンサに言われたことがショックだったらしい。


「……陛下。アルドンサは優しい女性です。ああ言ってしまったのは……ふとした弾みですよ」

「弾み……フンッ。ここがクローネだったら、アイツはとっくに処刑されているぞ」

「ですが、ここはクローネではありませんよ」


 私がそういうと、国王は言葉に詰まってしまったようだった。


「……お前も、意地悪だ」

「あはは。すいません。ですが、陛下を見ていると、ちょっと昔の私自身を思い出しますよ」

「何? 僕が……お前?」

「そうです。陛下のお気持ちはわかりますよ。陛下にとって、あんなお部屋は初めてなんですから。嫌がって当たり前です」


 私がそういうと、陛下はぽかんとした顔で私を見ていた。

 そして、しばらくすると、咳払いをして立ち上がった。


「そ、そうだよな!? 僕、別にわがままじゃないよな?」

「え? あ、ああ。まぁ……」

「ふふっ。そうだよな!? ……ああ、そうだ。お前、名前なんていうんだ?」

「え? 名前……申し上げたはずですが……」

「忘れた。もう一度言ってくれ」

「あ……シャルルです。シャルル・フロベール」

「シャルル……よし。シャルル。お前と二人きりなら、僕、あの部屋に泊まってもいいぞ!」


 国王は上機嫌で、歯をむき出しにしてそう言った。

 ……え? な、なんだって?

 私はあまりのことに呆然としてしまったのだった。

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