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敗者の旅路 1

「……もう、嫌だ!」


 ふと、背後からそんな声が聞こえた。

 私はうんざりとしながらも顔をそちらの方に向ける。


「もう嫌だ! もうたくさんだ! 絶対ここから動かないからな!」


 そういって道端に座りこんで頬を膨らませるのは、クローネ・ド・ブランダ16世……ブランダ王国の「元」国王だった。

 既に革命が起きてから5日。

 私とアルドンサ、そして二人の断罪人に国王は、なるべく王都から離れるようとしていた。

 かといって行く充てもなく、私達は彷徨うようにして歩いていた。

 そして、既に国王は5回ほど、道端に座り込んで駄々を捏ねていた。


「……陛下。お気持ちはわかりますが、ここで駄々を捏ねていても仕方ありませんよ」

「うるさい! もう疲れた! ベッドで寝たい! 美味しい食べ物食べたい! なんで僕がこんな辛い目に会わなきゃいけないんだ!」


 アルドンサはこめかみをピクピクとさせながら国王を見ている。


「アルドンサ……た、確かにずっと歩き続けだ。陛下が疲れるのも無理はない」

「しかし、シャルル。こんな近場ではいつ革命派に見つかるともわからんぞ?」

「だ、だが、アルドンサ。革命が起きてまだ5日だ。さすがにそんなに早く革命の影響が出ているとは思えないのだが……」


 アルドンサは不満そうだったが、私としても、さすがに革命が起きたこと自体が王国中に伝播しているとは思えなかったのである。


「そうだ! おい、カルリオン! 僕は疲れているんだ! いい加減休みたいぞ!」

「……わかりました。では、次に街か村が見えたら休みましょう」


 それでもアルドンサは納得いかないようだったが、国王はそんなアルドンサの様子も気にせずに、ようやく休めることになったかと思って嬉しそうだった。


「……というわけだ。マリアンナ、エリスもいいか?」


 少し先を行っていた二人の断罪人に私は声をかける。


「ええ。ワタクシは構いませんわ。マリアンナはどうです?」

「ああ。私も構わない。ただ、少し気になることはある」

「え? 気になること? なんだ? マリアンナ?」


 私が訪ねるとマリアンナは少し考え込むように腕を組む。


「奴らがどういう魂胆で動いているのか、ということだ。仮にそこのチビを断罪しようとするならとっくにソイツは断罪されているはずだ」


 チビ、と言われて国王はムッとした顔をする。


「そ、そうなのか? それは……マリアンナとエリスがいるから手出しできないだけじゃないのか?」

「いや、さすがに私とエリスでも大勢の断罪人が一気に来ればひとたまりもない。だが、奴らはそれをしていない。そうなると、つまり奴等にとってそこのチビはどうでもいいのか。それとも――」

「おい! お前!」


 と、マリアンナがそこまで言おうとすると、先に国王がなぜかマリアンナに食って掛かった。


「なんだ?」

「お前……チビ、っていうのは僕のことを言っているのか?」

「ああ。そうだが」

「なっ……! お前だってチビだろうが! それに僕は国王だぞ!」

「ああ。『元』国王だな」


 マリアンナにそういわれると国王は何も言い返すことができなくなってしまったようで、プイとそっぽを向いた。


「ほら! お前達! さっさと次の街に行くぞ!」


 そして、私達の先頭に立つと、国王はそういって勝手に歩き出した。


「……シャルル」


 と、そこへアルドンサが話しかけてきた。


「なんだ? アルドンサ」

「あまりこんなことを言うのはなんだが……革命は起きて当然のことだったのもしれんな」

「あ、あはは……と、とにかく、先を急ごう」


 怖い目つきのアルドンサには曖昧に返事をしながら、私達は国王の後に続いた。

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