クローネは燃えているか 10
「な、なんで……こ、ここに……?」
エリックがワナワナと震えながらクリスタを見ている。
しかし、私も、アルドンサも同様だった。
なぜ、この場にクリスタが……断罪人を引き連れたクリスタがいるのか。
クリスタは不敵に笑っている。背後にいる断罪人は十か二十か……その誰もが生気のない瞳でこちらを見ていた。
「よぉ、エリック。元気そうじゃねぇか」
「あ……クリスタ姐さん……ど、どうしたんですか?」
「どうした、だと? はぁ……そんなつまんねぇこと聞くなよ。革命だよ。革命をやりに来たんだよ、エリック」
隻眼をギラギラさせながら、クリスタはそう言った。
「ど、どういうことですか? だ、だって……これじゃあ話が違う……」
「そうですねぇ。アナタが知っている話とは、ちょ~っと違うかもしれませんねぇ~」
そして、また声が聞こえてきた。
今度の声も聞き覚えのある声だった。
まるで人を眠りに誘うようなのんびりとした間延びした声……
「なっ……なんでアンタが……」
クリスタの背後から現れたのは、修道服を身にまとった少女だった。
しかし、断罪人ではない。
胸には十字のペンダントを下げている。
その顔つきは穏やかで、目つきはトロンとしている。
そんな聖女が、隻眼の断罪人の隣に立った。
「……モニカ」
「どうもぉ~。みなさぁ~ん」
ヒラヒラと手をふるモニカ。
どういうことかはわからなかった。
だが、なんとなく事態が最悪の方向に向かっていることだけは愚かな私にもよくわかった。
「あ……アンタはまだここに出てこないはずだろうが!」
エリックが興奮した様子でそう叫んだ。
しかし、モニカは動揺する様子もなくエリックを見ている。
「ええ、そうですねぇ~。アナタとの話ではそういう手筈でしたぁ~」
「だ、だったら! だ、大体、クリスタ姐さんだけじゃなく、断罪人をこんな引き連れて……い、一体どういうつもりだ!?」
「ですからぁ……革命、だよぉ!」
そういうとモニカはいきなり胸のペンダントを思いっきり掴むと、そのまま引きちぎった。
そして、それを床にたたきつけると思いっきり足で踏みつける。
「アーハッハッハ! ついに……ついにこの時が来たぁ! 長かった……ホントに長かったぁ……! 千年……千年だよ? わかる? わからないでしょうねぇ? アンタ達みたいな取るに足らない人間にはさぁ!」
いきなりの変貌にその場にいた全員が呆然としてしまった。
クリスタと断罪人だけが、表情一つ変えていない。
「え……あ……ちょ、ちょっと……」
「ふふふ……ああ。アンタ。もう用済みだから。クリスタ。やっちゃいなさい」
そういうとクリスタの姿が一瞬にして消えてなくなった。
「え……?」
そして、次の瞬間には、
エリックの身体は、クリスタのカタナによって真っ二つに斬りつけられていた。
「は……はぁ?」
絶叫することもなく、エリックはその場に倒れた。
「な、なんで……ど、どうして……」
「はぁ~……哀れよねぇ。本気で自分が断罪人を利用して出世できると思ってたんだから。ああ~神様~この愚かな罪人に救済を~……って、神様がいたらこんなことになんかならないんだけどね。アハハッ!」
モニカは無邪気にそう笑っている。
エリックは小刻みに震えながらクリスタに手を伸ばしている。
「ね、姐さん……そ、そんな……お、俺は……ほ、本気で……」
「本気で、何をしようとしていたんだ?」
「お、俺は……姐さんを……」
しかし、クリスタは、エリックが最後まで言い終わらないうちに、カタナの切っ先をエリックの喉下につきたてた。
エリックは苦しそうな呻きを上げ、しばらくピクピクと痙攣した後、まったく動かなくなった。
「どう? クリスタ。今まで自分を信用してくれていた男を裏切った感想は?」
モニカの問いにクリスタは首をかしげる。
「裏切った? なんだそれ。今、俺は何か悪いことをしたのか?」
「……アッハッハ! いいわ! それでこそ私の千年の間の最高傑作! 何も悪くない! アナタは何も悪くないわ!」
モニカはそう言ってひとしきり笑い声をあげた後、くるりとこちらに顔を向けた。
「……さぁ~て、残りのゴミを処理しましょうかぁ?」
ニヤリと笑ったその顔は聖女ではなく、どちらかというと魔女のそれであった。




