クローネは燃えているか 2
「も、モニカ……どうして……」
「どうして、って……私は毎朝いつもこうしていますよぉ?」
面喰らった私がそう訊ねても、何食わぬ顔でモニカはそう言う。
「毎朝、この時間に来て陛下に朝の御挨拶をするんですぅ。だから、今日も同じようにここへ来てみたら、まさか、アナタ達に会うとは思いませんでしたぁ」
「そ、そうなのか……モニカ。その……頼みがあるんだ」
「はい? なんですかぁ?」
「実は私達は一刻も早く陛下に会わなければならないんだ。その……どうにかして君と一緒に城の中に入れないだろうか?」
そういって私は城門の前の兵士を見遣る。
モニカも私の言っていることの意味がわかったようで小さく頷いた。
「わかりましたぁ。ですけどぉ、朝の陛下はご機嫌があまりよろしくないですよぉ?」
「わかった。ありがとう」
すると、モニカは城門の前の兵士に近付いていってなにやら話していた。そして、すぐに兵士はモニカの話を理解したのか、城門を開く。
「なんとか城の中に入れそうだな……しかし、別にモニカに頼まずとも私がなんとかしたというのに……」
アルドンサが不満そうにそう言った。
確かに公爵の娘が謁見を望んでいるといえば通してもらえたような気もするが、仮に断られた場合のことを考えるとアルドンサに交渉をさせることはできなかったのである。
「さぁ、行きましょうかぁ」
状況にそぐわない間延びした声のモニカと共に城の中に入って行く。
もっとも、モニカは何も知らないだからそんなことを言っても仕方ないのだが。
城の中は街とは対象的に慌しかった。多くのものが長い廊下を行き交っている。
「とりあえず、陛下のお部屋に向かいましょうかぁ」
モニカの言葉に従い、私達は長い廊下を抜けその先にあった階段を上り始めた。
上を見上げるとまるで天まで届くほどに階段は延々と続いている。
「モニカ……この階段、登るのか?」
「そうですよぉ? 問題ありますかぁ?」
仕方なく私とアルドンサはモニカに続いて階段を昇った。
五階分の階段を上りきった頃には私は完全に息切れしていた。
「シャルル。お前、相変らず体力ないな」
少し息の上がっているアルドンサがそう言う。
「陛下のお部屋はこちらですよぉ」
息の一つの乱れていないモニカが再び歩き出した。
そして、モニカはそのまま進んだ先の扉の前で立ち止まった。
「ここが陛下のお部屋です。普段は私しか来ませんから、ちょっと驚くかもしれませんねぇ」
そういってモニカは扉をノックした。
「陛下ぁ? 朝ですよぉ?」
しかし、返事はない。
「あらら~、まだ寝ているようですねぇ?」
困った顔で私を見るモニカ。
「いや、寝ていてもらっては困る。早く起こしてくれ」
「そうですかぁ、では、お部屋の中に入りましょう」
モニカが扉を開ける。
部屋の中に入って私は驚いてしまった。
部屋中一面に、動物の人形が所狭しと並べられているのだ。
そして、中央にあるベッドにもいくつもの人形が乗っている。
その人形の中心に埋もれるようにしてブランダ国王は眠っていた。
「陛下ぁ。私ですよぉ。モニカですぅ」
先ほどよりも少し大きな声でベッドの上の国王を呼ぶモニカ。
すると、国王は瞼を動かし、やがてめんどくさそうに起き上がった。
「う~ん……なんだよ……朝か?」
「はい、そうですよぉ。陛下。今日はシャルル様とアルドンサさんがお急ぎの用があるとかで、陛下に謁見したいそうですよぉ」
「は? シャルル……なっ……! お、お前……!」
すると、国王は私の姿を認めると、顔を真っ赤にした。
「陛下、申し訳ございません! 実は緊急の事態が――」
「ば、馬鹿者!」
と、その言葉と共にとんできたのはぬいぐるみだった。
「おぶっ! ちょ、ちょっと……陛下、話を……!」
「うるさい! 誰が勝手に入っていいと言った!? さっさと出て行け!」
とめどなくぬいぐるみが飛んでくるので仕方なく私は扉を開けて部屋の外に出ることにした。
程なくしてアルドンサとモニカも出てくる。
「ね? ご機嫌が良くないでしょう?」
「あ、ああ……そうだな」
ボサボサになってしまった髪を直しながら私は頷く。
しかし、寝室に入られたくらいであんなに怒らなくてもいいと思うのだが……
「まぁ、これで陛下もお目覚めになったことですからぁ、先に謁見の間に行きましょうか」
「え? い、いいのか?」
「大丈夫ですよぉ。陛下はあれでもこの国の王様ですから、ちゃーんと、お二人の話は聞いてくれますから」
暢気な口調でモニカはそう言って歩き出した。
私はアルドンサの顔を見る。アルドンサも半信半疑と言った顔だ。
果たして、これで革命軍の出撃までに間に合うのだろうか……?




