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大脱走 2

「しかし、アルドンサ……一体どうやってここまできたんだ?」


 周囲に注意しながら私達三人が歩いている途中、私はアルドンサに訊ねる。


「ああ、それならもっともここまで早く来ることが出来る方法でやってきた」

「最も早く? よくわからないが……しかし、そういうことなら、王都までは一日もかからないで戻れるんだな?」

「まぁ、大丈夫だが……何か急ぐ用事でもあるのか?」

「何かって……革命だよ。革命が今にでも始まりそうなんだ」

「何? そんなにすぐに始まるものなのか?」

「ああ。クリスタが言うには明後日には革命を敢行するらしい。そうなれば王都は大混乱だ。今すぐにでも王都に戻ってこのことを王に伝えないと……」


 もっとも、あの王にこのことを伝えても果たしてどこまで本気にしてくれるかどうか……

 しかし、伝えないままにしておけば確実に大混乱が王都に巻き起こる。

 少ない可能性であっても、それに賭けなかれば、何も変えることができないではないか。


「わかった。では、王都に戻り次第、すぐに王に謁見しよう。半日もかからずに王都には着く」


 アルドンサは頷いた。

 おそらくここから先は早さが勝負となってくる。

 クリスタよりも早く、王を説得できることができれば、なんとか王都での混乱だけは避けることができるはずである。

 もっとも、衝突は避けられないだろうが……


「さぁ、急ぐぞ。街を出ればすぐにここから離れることができる」


 アルドンサの言葉に、私達は急いだ。

 無論、目立たないようにしながら、夜の闇の中を急ぐ。

 しかし、妙だった。

 修道院からは簡単に脱出することができたのだ。

 扉の前には門番もおらず、街の中には傭兵さえもいない。


「一体どういうことだ……?」

「どうした? シャルル?」

「ああ、いや……アルドンサ。あまりにも簡単じゃないか?」

「簡単? 何がだ?」

「何って……私達を邪魔する障害が何もないじゃないか。あまりにも不自然だ」

「それは……確かにそうだが……」


 アルドンサも不可解そうな顔をしている。

 しかし、かといってここで立ち止まっているわけにはいかない。

 それに、私とアルドンサ以外の二人、つまり、二人の断罪人は特にそのことに何も気を止めていないようである。

 私があまりにも気にしすぎなのだろうか……?


「シャルル。あそこだ」


 と、革命都市の入口が見えてきた。

 そこから出ると、少し離れたところに馬車が見えた。


「あ! お嬢様!」

「コチラです! お嬢様!」


 その前に立っている二つの人影。


「あれは……ニコラスとサンチョか?」

「ああ。ここまでアイツ等に馬車でつれて来てもらったんだ。無論、父上には内緒でな」


 そういってウィンクするアルドンサ。

 おそらく公爵はまた心配していることだろう……


「お嬢様! ご無事で?」


 馬車の前までやってくると、心配そうな顔でニコラスとサンチョがアルドンサを見る。


「ああ。お前達、さっさと馬車を出せ。王都に戻るぞ」

「はい……あ!」


 と、ニコラスが蒼い顔で私の背後を見る。

 その方向には二人の断罪人がたっていた。


「だ、断罪人が……二人……!」

「ニコラス!」


 と、震えるニコラスにアルドンサが一喝する。

 ニコラスは震えるのをやめた。


「これはお前の主としての命令だ。馬車を出せ」

「え……で、でも……」

「私の言うことが聞けないのか?」


 アルドンサのその言葉に、ニコラスはそのまま急いで馬車の運廉席に戻った。

 サンチョも同様である。


「アルドンサ……」


 声を荒げたアルドンサに私は訊ねる。


「ん? どうした? シャルル」


 しかし、一瞬にしてアルドンサの表情は元に戻っていた。


「あ……いや、なんだか、二人に悪いことをしてしまったような……」

「いいんだ。アイツ等だって、これから起こることを知ればきっとわかってくれる。それに、従者に道を示すのは、主の勤めでもあるからな」


 アルドンサはニッコリと私微笑んだ。

 しかし、先ほどの剣幕……あの百戦錬磨のカルリオン公爵の面影を確かに見ることが出来た。

 私は、とんだ女性の許婚になってしまったものである。


「よし。とにかく、馬車に乗れ。行くぞ」


 私とアルドンサは馬車の扉を開け、中に入った。

 しかし、マリアンナとエリスがこちらにやってこない。


「どうした? 二人共?」


 見ると、二人は革命都市の方向を見ている。


「ああ。少し考えていた」

「何を?」


 マリアンナとエリスは同時に振り返った。


「いえね……きっと、これから、とんでもないことが起こるんだって思っているんですの」


 エリスはニッコリと笑ってそう言った。

 とんでもないこと……私も同感だった。

 その時は、一体どれくらいとんでもないことが起こるかはわからなかったが。

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