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魔弾の射手 4

「マリアンナ!」


 私は走りながらマリアンナの名前を呼んだ。

 暗い森の中で時に足元を草木にとられながらも、私は走る。

 すると、少し先に黒い影が二つ見えた。


「マリアンナ!」


 私は影に近付いて行く。

 それらはやはり、一つはマリアンナ。

 そして、もう一つの影は……


「……エリス」


 紅い修道服に身を包んだ、白髪の少女。

 相変わらず貼り付けたような笑顔で私に微笑みかけていた。


「あら。シャルル様。お久しぶりですわね……って、そうでもないでしょうか。まぁ、そんなことはどうでもいいですわ。まさか、こんなところでお会いするとは思いませんでしたわ」


 何食わぬ顔でエリスはそう言った。

 喉元には既にマリアンナの斧の切っ先を突きつけられているというのに恐怖している様子はない。

 そして、地面にはエリスの使用していたと思われる銃が転がっている。

 傍目から見ても完全にエリスの敗北であった。


「エリス……どうして……」

「どうして? ふふっ。シャルル様。それは愚問ですわね。ワタクシはマリアンナを抹殺するようにクリスタから依頼された。それだけですわ」

「だからって……君は、マリアンナと共にジェラルドが課した過酷な状況からも抜け出したんだろう? それなのに、君はマリアンナを……」

「ええ。殺すつもりでしたわ」


 淡々とした口調でエリスはそう言った。


「ですが、その事実があるからといって、ワタクシがマリアンナを殺しては行けないなんて決まりはないでしょう?」

「そ、そんな……」

「ふふっ。シャルル様。マリアンナを狙っている間も聞こえましたわ。ワタクシがこうしてマリアンナを殺そうとするからこそ、ワタクシ達は断罪人という枷から逃れられないのだ、と。ですが、お聞きします。それでは一体どうすればよいのですか? ワタクシ達はどうすれば、断罪人以外の存在になれるのですか?」


 エリスはニコニコとしたままそう尋ねた。

 私は何も言わずエリスの顔を見返す。


「……わからない」

「はい?」

「……それは、わからないんだ」


 私は正直に言った。

 わからない。未だにわからなかった。

 というよりも結局、その時の状況こそが、私が未だにその解決策を見出していない何よりの証拠だった。

 それが見つかっていれば、そもそも、マリアンナとエリスが殺しあう状況など生まれるはずもなかったのだから。

 私の応えにエリスは大きく溜息をついた。


「そうですか……分かりませんか」

「……でも! 私は――!」

「ええ、わかっておりますわよ。シャルル様。シャルル様はお優しいお方ですもの。『まだ』わかっていないだけなのでしょう?」


 エリスは首をかしげるようにそう言った。

 私は何もいえなかった。

 そして、悲しくなった。

 私は結局また――


「……マリアンナ。やめろ」

「何? 今なんて言った。シャルル」

「……やめるんだ。エリスから、離れろ」


 腹から押し出すように、私は声を出した。

 マリアンナは不思議そうに私を見ている。


「エリスに武器を向けるのはやめろ。マリアンナ」

「お前、何を言っているのかわかっているのか?」

「ああ。わかっている」


 今度ははっきりと、マリアンナに聞こえるように私は言葉を発した。

 マリアンナは何も言わずに私を見ている。

 そして、しばらくの沈黙の後、ゆっくりと斧の切っ先をエリスから離した。

 その瞬間、エリスは地面に転がっていた銃を手に取り、私に向ける。


「どういうつもりですの?」

「……ふふっ。いや、私にも良く分からないんだ。ただ、ここで君を見殺しにすれば、おそらく、私は君やマリアンナを断罪人という束縛から解放する術の解明からさらに遠のくことになると思うんだ」


 無論、確信はなかった

 だが、直感としてその感覚はあった。

 愚かな行為だとしても、ここでまたマリアンナの「断罪」を許してしまえば、それだけ私は自分を無力な存在だと思うことになる、と。

 私がそう言うとエリスは銃口を私から反らした。


「はぁ……まったく。本当に、変わった方ですわね。シャルル様は」

「……ははっ。そうだな」

「でも、その甘い考え、ワタクシは嫌いではありませんわよ」


 そう言ったかと思うと、私達に背を向け、森の奥へと一瞬にして消えていった。


「おい、シャルル」

「……ああ。わかっている。悪かった。マリアンナ」


 私は溜息を付きながらマリアンナの方を見る。

 しかし、マリアンナは怒っているというよりも、むしろ、私の気のせいかもしれないが、どこかすっきりとしたような表情だった。


「いや、別に構わないがな」

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