シャルル・フロベールの語り
私が生まれ、住んだ国は荒れていた。
階層の低い者達は日常的に盗みや殺しを行い、他人を信じることをしなかった。
その一方で、位の高い者達は自分のことしか考えず、私腹を肥やし、金と女と食物に囲まれる日々を送っていた。
少し前の私は、歴然とした後者であったと言える。
シャルル・フロベール。それが、私の名前である。
フロベール家は代々王家に仕える名門貴族で、私はその長男として生まれた。
物心がついた頃には、既に自分が恵まれた存在であり、且つ、選ばれた存在であることを自覚していた。
屋敷の前に座り込んでいる宿無しを見ては、あれは果たして自分と同じ人間なのかと疑った。
それほどまでに私は恵まれていたのである。
早くに母を亡くした私は、父であるクリス・フロベールの愛情をたっぷりと受けて育った。
むしろ、受け過ぎていたと、今では思う。
私はロクに勉強もせず、毎日遊び呆けてばかりだった。
それが正しいことだと思っていたし、選ばれたものには当然の権利だと思っていた。
だが、さすがに限度が過ぎていたのだろう。
また、もう一つの問題として、優秀な弟が居た。
ジョージ・フロベール。
小さい頃から勉強ばかりしていた。
私から見れば変わりものでしかなかったが、弟からしてみれば私が変わり者であったのだろう。
そんな勉強熱心な弟のせいで、私の怠惰ぶりは一層目立ってしまった。
そして、私の人生を大きく変えることになった出来事は、私がちょうど二十歳になった日にやってきたのである。