どっちが……
五月中に更新できなくて申し訳ありません。五月に入って中間考査ある関係で更新できませんでした。
今月はさらに前期期末考査が入るのでさらにハードです。今月は更新できるかどうか怪しいですが、どうぞ見守ってやってください。
日がだいぶ傾いて、空が赤く染まってきている頃。リグレとテナは汽車から降りる準備をしていた。
一時間ほど前、リグレとテナが泊まっている部屋に、車掌入ってきて、二人が降りる駅が次の駅で、十三時頃に着くと報せてくれた。何でも次の駅で降りるのはリグレとテナの二人だけなんだとか。本当ならもう一組個室で乗るはずだった二人組がいたらしいが、乗り遅れたのかわからないが来なかったのだという。
一昨日、あふれるほどいた人も、汽車がだんだん田舎の方に行くにつれてだんだん居なくなって、今では空いている車両の方が多くなっていた。
「そういえばさあ、あの車掌さん俺らともう一組きてるっつった?」
ベットに寝っころがってホットワインを飲みながら本を本でいたリグレが思いついたように口を開いた。読み終わってしまったようで、本を閉じて、その辺へ放ると寝ながら横向きになってテナの方を向いた。
「へえ? あ・・・ええっと・・・ ああ、来るはずだったらしいんですけど、来なかったらしいですよ。おおかた寝坊でもしたんだろうって車掌さんは言ってましたけど」
降りる準備をしながら、何となーくリグレの横顔を眺めていたテナだったが、不意を突くようにリグレがそっちを向いたものだから少し戸惑ってしまう。
リグレは、さっき温めたホットワインを一口飲み込んで、
「アルとシエラかな・・・」と適当にあたりをつける。まあ、この時期にリグレの村へ行く二人組と言えばその二人くらいしかいないだろう。
そんな風にぼーっと外の景色を眺めていると、テナがなぶるように言った。
「リグレさんも昨日はしっかり遅れてきましたよねー。まあ、リグレさんが時間を守らないのなんていつもの事だから、今更どうとは言いませんけどー」
うう~っ、と威嚇するようにリグレを睨む。
そんなテナの様子を見て、リグレは少し悩む。昨日は一体何がいけなかったのか。確か以約束の時間には遅れたが、列車を逃してしまった訳ではない、むしろ列車の中に入ってからあらかじめ予約しておいた部屋を探す時間があるほどだった。そういう意味では、一番ちょうどいい時間に行ったはず。そんなことを考えて、リグレは言い返す。
無論テナが怒っているのはそこではない。
しかし、布団さえあれば、いつでもどこでも眠くなる質のリグレに皮肉を言うのは、少しばかりタイミングが悪かった。リグレは特別寝起きが悪いというわけだはないが、寝起きや眠たいときにそんなことを言われて、気持ちのいい人間などいない。
「いや、もうその話はいいでしょ。昨日からそればっかじゃねえかよ。夜も緊張して寝れなかった奴が。目元に隈がが浮かんでんぞ。女としてそれでいいのか」
「へっ?」
テナはいきなりリグレが反撃してきたことに面食らって、すぐに目元に指を這わせる。ショックのせいか、恥ずかしいのか、耳まで真っ赤であたふたとせわしなくしている。
言ってしまって、しまった。リグレは思う。彼がテナに掛ける言葉としては、最悪じゃないか。
もちろん目元には大して隈など浮かんでいない。テナが昨日一晩あまり寝れていないのは本当だが、一晩徹夜した程度じゃ、隈はそこまでくっきりとでるものじゃない。
うずくまって顔を隠すテナだが、顔を隠そうとするあまり耳が見えている。それが真っ赤に染まっているのを見て、リグレは、寝っ転がったまま頭を掻く。
消えそうな声で
「見ないでください」
テナが言う。
テナがあんまり恥じ入っているものだから、リグレは、ちょっと笑ったように言う。
「嘘だよ。まあ隈になってはいるけど、よく見ないと分かんないから」
諭すように言ってやる。
「えっ?」
テナの背中がびくっと跳ねて、うずくまって隠していた顔を上げる。鞄から鏡を取り出して微妙に潤んだ目元をさわりながら確認して、がくっと息をつく。そして俯いたまま、横にあった枕を抱き抱えて、
「リグレさんなんか、隈か取れたこと一度もないじゃないですか・・・。いつもあんなに寝てるのに・・・」
頭の中では、リグレの「良く見ないと」と言う言葉が反響して、さっきとは違う意味で真っ赤になっていたりするのだが、顔が見えてない。
そもそも、そこまで微細な変化が判るほどリグレは鋭くはない、というか気にしていない。
それでも中途半端に周りを見ているものだから変なところに気付いて、どうすればいいか判らず中途半端に気を使ってみれば、気付かない所でどうにも思わせぶりな態度をとってしまう。
二五にもなって、いい加減学習してもいいようだが、いかんせん本人がどこがいけないのか判っていない。
「いや、俺は出来ればずっと寝てたいんだけど」
黙るテナ。リグレはてっきりテナが何か言い返して来るものだと思っていたものだから、今度は彼が面食らったようになってしまう。
「て、テナさん?」
何があったのか。とリグレが声をかけると、さっき以上に背中が跳ねて、
「・・・何ですか?」
顔を上げずに答えるテナ。
そのうちリグレはテナが答えない事に面倒くさくなってしまい、構うのをやめてしまう。
それから二人は、その沈黙を保ち続け、気まずいままだったとか。(リグレだけ)